リオ五輪PRESSBACK NUMBER
日本人初の9秒台、決勝進出かなわず。
100m走“最強の3人”に欠けたもの。
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byJMPA
posted2016/08/18 17:30
準決勝で最後は余裕の走りぶりだったボルト。絶対王者と同組で走った山縣も自己ベストを叩き出したが……。
海外トップ選手との対戦、怪我のない肉体を。
3選手が目標に届かなかった理由はいくつかある。
その一つが怪我だ。山縣は2013年モスクワ世界陸上の予選後に肉離れ、また2015年は腰痛に苦しんだ。ケンブリッジや桐生も2014年、2015年と良い形でシーズンインしたものの怪我に悩まされた。
3人とも今回と同じようなコンディションで昨年の北京世界陸上を経験していたら、今大会の結果は多少なりとも変わってきたはずだ。
また海外のトップ選手と走る経験不足も大きい。中国や日本の選手が海外のトップ選手と走った際に萎縮したり、体が硬くなって本来の力を出せずに終わることがあり、それを米国人コーチは「アジアン・シンドローム」と呼ぶが、改善するには海外遠征をしたり、自分よりも速い選手と練習をする必要がある。
自信を持てないままで五輪を迎えてしまった。
日本選手権後、山縣は国内で調整し、ケンブリッジと桐生は欧州で試合をこなした。
ケンブリッジはベルギーで2試合出場し、100mは10秒30で2位、200mは自己タイ記録の20秒62で優勝している。
海外レースの計画を立てた大前祐介GMは「日本では本人と似たようなタイムを持つ選手と走る機会があまりないので、とてもいい経験になったと思う。200mでは競って勝つことができた。勝ち癖をつけることはとても大事です」と話したが、それは今回の予選で確実に生かされた。
桐生も同じく欧州遠征をしたが、2戦とも9秒台の選手が揃ったレベルの高いレースで、スウェーデンは10秒34で4位、2戦目のハンガリーは10秒17で6位だった。
土江寛裕コーチは「五輪の準決勝を想定したレース」と話していた。将来的にはそういうレース経験も必要だが、勝ったり優勝争いをできるレースを経験しなかったため、自信を持てないままで五輪を迎えてしまった感は否めない。
ボルトが五輪3連覇を果たした100m決勝を3選手はスタジアムで観戦した。憧れの舞台を駆け抜ける8人はみな輝いて見えた。
東京五輪まであと4年。3選手がどう変わっていくのか、変わろうとするのか。スプリンターとしての真価が問われる4年になる。