桑田、清原という巨大な2つの才能。

「こいつらで甲子園にいける。あの時は、そう思ったよ」

　そんな山本の大産大高が初めてPL学園と対戦したのは'83年夏の大阪大会準々決勝だった。試合前、相手の中村順司監督とすれ違うと、呼び止めた。

「おいっ！　覚悟しておけよ」

　高校野球は、そこに生きる大人の戦いでもある。かつて監督、コーチの間柄で全国制覇を成し遂げたが、それだけに因縁は深さを増した。

　だが、まだ1年生だった桑田、清原は大産大高を寄せ付けなかった。夏も、秋も、翌年春も、山本の野望は巨大な2つの才能に跳ね返された。

　そして、迎えた最後の夏、山本の執念は極まった。「打倒PL」だけに狙いを定め、エース中本を5回戦まで温存した。あと1歩まで迫った準決勝、桜宮戦は延長15回の死闘になった。中本が205球を投げ抜いた末にサヨナラ勝ち。ただ、大勝で準決勝を突破したPLとは対照的に、大産大高のエースは精も根も尽き果てていた。

「風呂に入れてやれ」

「当時は休養日なんてないから、連戦でね。さすがに200球投げて、疲れ果てているやつを翌日も投げさせられないなと思った」

　それでも、PLに勝つには中本が必要だった。決勝戦前夜、山本は父・一人に電話をかけた。

「親父、明日、PLとやるよ。でも、中本が200球以上投げた。投げさせるべきだろうか」

　すると、プロ野球界の巨星は言ったという。

「風呂に入れてやれ。出てから、本人に聞いてみろ」

　山本は、風呂から出た中本に問うた。明日はリリーフにまわるか？　すると、中本は答えた。

「いけるところまでいきます！」

【次ページ】　バッテリーに授けた対PLの秘策。