松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
緊張したマスターズ、フツウの全米。
松山英樹が挑む、優勝への「難所」。
posted2016/06/16 11:30
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph by
Sonoko Funakoshi
全米オープン開幕を目前に控えた火曜日。会見に臨んだジェイソン・デイがこんなことを言った。
「これまで、これほどのストレスを感じたことはない。世界ナンバー1になった今は、たくさんの期待を担い、王座を維持するために必死に練習し、可能な限り多くの勝利を挙げようと努力し、自分で自分にプレッシャーをかけている。今は人生で最もストレスを感じている」
言うまでもなく、デイが言ったストレスは、いい意味でのストレスだ。世界ナンバー1に上り詰めたがゆえに感じているストレスなのだから、たとえるならば「うれしい悲鳴」のようなものだ。
そして、デイのこれまでの人生を振り返れば、彼がかつて味わってきたストレスは今のそれとは異なるものばかりだった。
手が届きそうな距離にある夢を掴めないストレス。
メジャー大会で勝ちかけては惜敗に終わり、どれほど悔しさを噛み締めてきたことか。マスターズでは優勝争いを繰り返し、オーストラリア人として初めてグリーンジャケットに袖を通すのは自分だと信じていた。だが、その夢をアダム・スコットに奪われた。
昨年の全米オープンでは、優勝争いに絡みながら持病のめまいを発症して倒れた。全英オープンでは72ホール目のバーディーパットがぎりぎりカップに届かず、グリーン上で悔し涙を流した。
必死に努力を重ね、どれほど試行錯誤を重ねても、どうしてもメジャー優勝に手が届かなかった昨年7月までのデイは、そんな報われないストレスを感じ続けていた。
8月の全米プロでついにメジャーを制してからは、プレーオフシリーズで2勝を挙げ、世界ナンバー1に輝き、そして今季はすでに3勝。とんとん拍子に進んでいる現在のデイのストレスは、それはそれで重いのだろうけれど、なかなか報われなかった昨夏までのストレスとは、まったく異質だ。
そして、全米オープン開幕を控えた今、松山英樹が置かれている状況は、世界の頂点に到達するまでの途上でデイが味わった試行錯誤の連続と、どこか似ているように思える。