詳説日本野球研究BACK NUMBER
中京学院大・吉川尚輝は攻守に派手。
プロスカウトが「うちのよりうまい」。
posted2016/06/11 11:30
text by
小関順二Junji Koseki
photograph by
NIKKAN SPORTS
全日本大学野球選手権(以下、大学選手権)に出場中の選手が6月7日、スポーツ紙の1面を飾った。東海地区大学野球連盟の岐阜県リーグに所属する中京学院大の3番、吉川尚輝(4年・遊撃手)だ。
しかも1紙だけではない。日刊スポーツとサンケイスポーツ2紙の1面を飾ったのだ。見出しは日刊スポーツが「野手にもいた 正義級逸材 12球団ドラ1候補」、サンケイスポーツが「巨人ドラ1候補 衝撃全国デビュー」である。ちなみに、「正義」とは今秋ドラフトで12球団の1位入札が一部で噂されている創価大の右腕、田中正義(4年)のことである。
6日がプロ野球の休みだったとはいえ、育成選手上りの原口文仁(阪神)がオールスターファン投票の中間発表で捕手部門の1位になったことや、舛添要一・東京都知事の政治資金公私混同問題など、スポーツ紙の1面にもってこいのニュースはいくらでもあった。それでも1面で使いたいと思わせる「華」が吉川にはあるのだろう。
プロのスカウトが「うちの○○よりうまい」。
1回戦の日本文理大戦では第1打席、センターオーバーの三塁打を放ち、このときの三塁到達タイムが私の計測ではプロでも上位の11.20秒だった。
さらに凄いのがショートの守り。2回に相手8番打者の高いバウンドでセンターへ抜けようかという打球をランニングキャッチすると、間髪を入れずノーモーションで一塁に投げて補殺。5回には9番打者のゴロを軽快にさばいてそのまま二塁ベースを踏んでから一塁に送球、併殺を完成させている。私の近くにいたスカウトは、自軍のレギュラーショートの名前を出して「うちの○○よりうまい」、「プロに入っても遜色ない」と絶賛した。
グラブトスを失敗したことさえ長所に見える。
2回戦で対戦した桐蔭横浜大戦では、2人のドラフト候補を攻略した。最速144キロのストレートと逆方向に変化するスライダーとシンカーを自在に操る技巧色の強い左腕、高橋拓巳(4年)からは第2打席以降3連続安打を放ち、2番手の速球派右腕、齋藤友貴哉(4年)の内角ストレートもセンター左に難なく弾き返し、合計4安打を記録している。
守備は4回に見せ場があった。相手3番打者の三遊間へのゴロを軽快にさばいて一塁へ遠投、惜しくもセーフになったが強肩とフットワークのよさが目立ち、4番打者のセンターに抜けようかというゴロは、さばいたあとセカンドカバーに入った二塁手にグラブトスを試みる。これが大きく逸れエラーが記録されたが、私にはむしろ長所として強く印象づけられた。
付け加えると、5回と7回には二盗を成功させて、7回には5番山崎善隆(4年)のセンター前ヒットで生還している。