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任天堂がマリナーズを手放した日。
元社長・山内溥氏の“シアトル愛”。 

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ナガオ勝司

ナガオ勝司Katsushi Nagao

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photograph byNaoya Sanuki

posted2016/06/01 07:00

任天堂がマリナーズを手放した日。元社長・山内溥氏の“シアトル愛”。<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

イチロー、佐々木主浩を擁して地区優勝した2001年のシーズン116勝はMLB最多タイ記録だ。

任天堂に打診したのは、シアトル側からだった。

 しかも、そこで任天堂が自ら名乗りを上げていたのなら、他の日系企業同様、厳しい視線を向けられても仕方ないが、彼らはシアトルから助けを求められ、それに応えただけだった。

 マリナーズを失う危機に際して最初に立ち上がったのは、地元ワシントン州選出の国会議員で、当時シアトル通商委員の一員だったスレイド・ゴートン氏である。

 ゴートン氏は「地元密着のスポーツチームが、地域社会の結びつきを強くする」と信じる政治家で、「最後の手段」としてシアトル郊外に米国における拠点を構えていた任天堂アメリカのハワード・リンカーン副社長(現マリナーズCEO)に、メジャーリーグ球団への経営参入を打診したのである。

 ハワード氏から任天堂アメリカ社長の荒川實(みのる)氏、そして任天堂社長の山内溥氏へと話はとんとん拍子に進み、クリスマスの頃には「我々の拠点があるシアトルが、プロ野球チームを維持するために1億ドルが必要なら、喜んでお出しましょう」というメッセージがゴートン氏の元へ届いた。しかもその資金は山内氏の私財を投入してのものだという。

シアトルに住み、愛した山内オーナー。

 だから、前出のコミッショナー声明に対しても、ゴートン氏は少しも怯むことなく、こう反論した。

「同じ外国のカナダ(カナダ企業が所有していたエクスポズとブルージェイズ)への売却を承認して、日本が承認されないのはとんでもない偽善だ」

 そもそも任天堂アメリカの荒川社長はシアトルに15年も住んでいるのに、当時のマリナーズ・オーナーはインディアナ州在住である。さらに、15年にわたるマリナーズの球団史の中で、シアトル在住のオーナーは皆無だった。最初の2人はカリフォルニア州。次はインディアナ州の実業家である。よりシアトルとの結びつきが強いのは誰なのか――。

 最終的にゴートン氏の熱意は通じ、山内氏の持ち株比率を50%以下に抑え、筆頭株主でありながらも多数派とはならないという裏技を使って、メジャーリーグ史上初の日系企業の経営参入が決定した(その後、山内氏の個人所有株が任天堂アメリカに譲渡されたことで持ち株比率が55%となり、任天堂が正真正銘の筆頭株主となった)。

【次ページ】 唯一のモチベーションは、地域への貢献。

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