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任天堂がマリナーズを手放した日。
元社長・山内溥氏の“シアトル愛”。
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byNaoya Sanuki
posted2016/06/01 07:00
イチロー、佐々木主浩を擁して地区優勝した2001年のシーズン116勝はMLB最多タイ記録だ。
唯一のモチベーションは、地域への貢献。
「山内さんと荒川さんの唯一のモチベーションは、自分たちが米国における成功の拠点にした、この地域社会を助けるということだったのです。経営参入の話を持ち掛けられるまでは、マリナーズの買収など考えていなかったのです」
そう語るのは、マリナーズのリンカーン現CEOだ。
今回の持ち株比率の変動≒マリナーズの「身売り」については、多くは語るまい。2013年に山内氏が他界。その前後からかつて家庭用ゲーム機で世界市場を席巻した任天堂が、スマホゲームの台頭に押されるなどして業績不振に陥ったことが理由の1つであることは否めない。いつしか「任天堂のマリナーズ売却」は既定路線となり、マリナーズのリンカーンCEOは、任天堂の君島達己現社長(元任天堂アメリカ社長)と、マリナーズの未来について幾度となく話し合ったという。
任天堂は、これからもマリナーズを支えていく。
「君島さんとは、任天堂がマリナーズに対しどうすべきかという話をしてきました。少数派パートナーと話し合い、彼らが任天堂の持ち株を買収する気があるのかどうかを確かめる時が来たということです」
リンカーン氏は経緯をそう説明する。一方、買収に動いた少数派グループを率いるスタントン氏はこう言っている。
「誰にとっても驚くような額だとは思いますが、査定に査定を重ねて適正価格にたどり着くと、後は簡単で素早いプロセスでした」
任天堂は55%の持ち株を10%まで減らすものの、今後もマリナーズの持ち株グループの一員としてチームを支えていくという。リンカーン氏に代わって新しいCEOに就任するスタントン氏は、最後にこう締め括っている。
「山内さんがシアトルに残してくれたマリナーズです。これからもワールドシリーズ王者を生み出すための努力を続けて行きたい」
野茂英雄が切り拓き、イチローやそのほかの選手たちが続いたお陰で日本でも親しまれるようになったメジャーリーグ。フィールド以外の場所で間もなく、ひとつの時代が終わろうとしている――。