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イチローの2016シーズン序盤戦。
最も印象的な「あの日」のこと。
posted2016/06/02 11:30
text by
Number編集部Sports Graphic Number
photograph by
Naoya Sanuki
5月21日土曜日。晴れ。最高気温31.7度。
カラっとした西海岸とは違い、空気の重さには馴染みがあるが、日差しがどうにも暴力的だ。日中立ち寄ったビーチでは白や青のパラソルが花咲いている。
1996年、アトランタ五輪で若きサッカー日本代表がブラジル代表を1-0で倒したあの「奇跡」の舞台、オレンジボウル競技場の跡地に建てられたマーリンズパークの開閉式の屋根は、先々週までは開放されていたが、暑さ対策でこのシリーズからはほとんど閉めたままになっている。
アメリカ・フロリダ州マイアミ。Number903号の取材で現地を訪れた。大記録を控えたイチローをしっかりと誌面に焼きつけることが最大のミッション。控えであろうと、出場機会がなかろうと、試合に臨むその一挙手一投足を、追いかけてみたかった。
ナイターゲーム前、午後3時から始まるルーティーン。
ホームスタジアムで19時すぎにプレイボールを迎える日の場合、イチローの球場入りは午後3時。クラブハウス内でストレッチやバット、スパイクやグローブの手入れをし、一旦室内ケージで軽くマシン相手のバッティング練習で体をほぐしてから1時間後の全体練習の時間を迎えるのが“ルーティーン”だ。
15時58分、イチローはロッカーからダグアウトに姿を現し、バット2本とグローブ、バッティンググローブをベンチ中央少し右寄りの定位置に置くと、三塁線脇で行われる野手のウォーミングアップ練習をフィジカルコーチと共に先頭に立って開始した。ジョグ、後ろ向きでのジョグ、横飛び、アキレス腱を伸ばしながらの歩行。やがて薄紫色のゴムバンドが配られ、四肢をさまざまな角度から伸ばしていく。
中南米出身の選手は、いかにも適当な具合にやっていて、白人系の選手もどことなく緩めに笑みを見せながらメニューをこなす中、イチローは誰よりも丁寧に、流れるように一つ一つの所作をこなしていく。もちろん、関係者がグラウンドに姿を見せればイチローも相好を崩す。でも、ストレッチのリズムを途切れさせることはない。