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任天堂がマリナーズを手放した日。
元社長・山内溥氏の“シアトル愛”。
posted2016/06/01 07:00
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph by
Naoya Sanuki
任天堂は日系企業として史上唯一、メジャーリーグ球団の筆頭株主だった。
4月27日の午後、本拠地セーフコフィールドの記者会見場で行われたマリナーズの会見を超訳すると、こうなる。
「本日マリナーズは、任天堂アメリカが持ち株55%の大部分をファースト・アベニュー・エンターテイメント(FAE)社に譲渡したことを発表します。それに伴い、ハワード・リンカーン現CEOが退任し、代わりにジョン・スタントンが新CEOに就任することも併せて発表させて頂きます。それらは8月に予定されているメジャーリーグのオーナー会議で正式に承認される見込みです」
一説によると、マリナーズの全持ち株は14億ドル(1ドル110円換算で1540億円)といわれており、任天堂は6億3000万ドル(693億円)分の持ち株をFAE社に売却するという。
マリナーズがアメリカに還る日が来た、ということだ。
日本企業の球団買収は逆風にあったが……。
任天堂がマリナーズを所有することになったのは今から24年前、1992年のことである。1990年代初頭はいわゆる“バブル景気”の最後の時期。日系企業の米国不動産の買収や公共事業への参入が日米両国間に軋轢を生んでいた時代だ。
メジャーリーグも例外ではない。メジャーリーグの当時のコミッショナー、フェイ・ビンセント氏は、任天堂のメジャーリーグ球団買収の可能性に際して当時、こんな声明を出している。
「米国やカナダ以外の外国の投資家に、球団のオーナー権がうつることに対し、野球界には強い懸念がある。だから外国の投資家の参入が、野球界から承認を得られるかどうかは定かではない」
これは任天堂にとって、本末転倒な話だったに違いない。当時のマリナーズは経営不振によりフロリダ州タンパへの本拠地移転を模索中で、'91年には「地元の買収者を優先する」ことを前提に球団の「身売り」を発表した。
マリナーズ引き留めのためにシアトルに与えられたのは、120日の猶予期間しかなかった。ところがマリナーズ株を「少数派グループ」の一員として所有していたボーイング社やマイクロソフト社でさえも、残り株の買収に二の足を踏むような経営状態だったのだ。新規参入に名乗りを上げる地元企業などほとんど存在せず、マリナーズの他都市への流出はほぼ確実だった。