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岩隈久志がスライダーに原点回帰。
諸刃の剣だった「初球にカーブ」。
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byAFLO
posted2016/05/11 10:30
メジャーの日本人投手の中でも、最も安定感がある岩隈久志。不調を修正する能力も、その成績を支えている。
カーブがボールになると、途端に苦しくなる。
ところが公式戦が始まると、そのカーブがボールになる場面が増え、ボール先行から不利なカウントになって狙い球を絞られ、勝負どころで打たれる原因になっていた。そうなると、速球の伸びや切れなど問題ではなくなる。走者を出しながらも粘投する持ち味は発揮していたものの、岩隈は4月の5試合で0勝3敗、防御率4.65と出遅れた。
まだシーズンは始まったばかりとは言え、気分が良いはずはない。4月27日のアストロズ戦で5回7安打5失点と打ち込まれて3敗目を喫した夜、岩隈は自分に対する苛立ちを隠すことなく、こう言っている。
「ここぞという時にボールが甘く入って、無駄な点を与えてしまった。攻略法も何も、ボールが先行して攻めるところまで行く前に打たれてしまったので、どうしようもない」
最後には前向きなコメントを残した岩隈だったが、我々が思う以上に結果を気にかけていたのかも知れない。4月30日、登板の合間に行う投球練習で、普段の20球前後より多い37球を投げ、「あんなに投げたのは久しぶりかも知れない」と笑い飛ばしながら、投げ込んだ理由をこう説明している。
「ピッチングコーチからはずっと、投げる時に手首が寝てしまうとアドバイスされていたんですけど、あまりそこばかり気にし過ぎても良くないんじゃないかなと思う。ただ、感覚を掴もうとすると、どうしても多めに投げてしまう」
肩肘の疲労を考えれば投げたくない。だが、投げなければ掴めない感覚がある。普段より多めの投球練習で何かを掴んだのだろうか。投球練習の後、思いがけないほど明るい表情で「次はたぶん、大丈夫ですよ」と言ったのが印象的だった。
組み立ての軸をスライダーに戻してみる。
件のアスレチックス戦。岩隈は「カーブのコントロールは難しい」と考えていたという。そこで引っ張る傾向にあるレディックに対し、外角のボールゾーンからストライクゾーンに入ってくるスライダーを投げてみた。
「今まで通りに戻すというか、バックドアのスライダーから入るとか、そういった球を有効に使いながらインサイドを見せたり、そこでボールを動かしながら相手に的を絞らせない投球がやっとできた」
と試合後の岩隈。レディックを一ゴロに打ち取った直後の打者は、低めのスライダーで遊ゴロ併殺打。6回のピンチを最少失点で切り抜けると、続く7回は三者凡退。結局、7回4安打1失点で今季初勝利を挙げたのである。