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五輪代表選考のゴタゴタを忘れるな!
田中智美、リオまでの「地獄の道程」。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byYohei Osada/AFLO SPORT
posted2016/03/14 11:30
「今回は決まったと思う」と語った田中。日本人2着の小原は「勝負の世界なので1番以外は違うっていうことは十分分かっている」。リオへは1万m出場に切り替える。
海外勢を抑えての優勝でも世陸に行けず!?
ショックの大きさには理由がある。
2014年11月、田中は横浜国際女子マラソンで優勝した。2015年の世界選手権代表選考大会だった。海外勢を抑えて勝った価値ある勝利だったが、発表された代表に田中の名前はなかった。「前半が消極的だった」との理由からの落選だった。
所属先である第一生命の山下佐知子監督は、もちろん「受け入れられない」と抗議した。
増田明美氏は代表発表会見で「これでいいのでしょうか」「すごく主観が入っているということですよね」と質問をぶつけた。
高橋尚子氏も「今回は田中さんだと思います」と異議を唱えた。
さらに川内優輝ら複数の現役選手からも疑問の声が上がった。マラソン関係者の多くが疑問を持たざるを得ないほど、控え目にいっても「不思議な選考」がなされ、田中は落とされた。
失意のまま潰れてしまいそうな悲劇だったが……。
当然、本人のショックは大きかった。
下手をすると、潰れていてもおかしくはなかった。
それでも再起を期し、リオデジャネイロ五輪代表を目指す決意を固めた。その決意は田中だけではない。山下監督は言う。
「長い1年になると覚悟しました」
そして、巻き返すための算段を整えた――。
山下監督は田中の指導に専念できる体制を、会社に、チームに求め、理解してもらった。田中以外にも所属部員たちがいて、駅伝というチームの目標もある中、監督が特定の選手につくのは異例のことだった。
「私たちのサポートをチームがしてくれた」と山下監督が感謝するのも無理はない。
その上で、70日間のオーストラリア、ニュージーランド合宿など厳しいトレーニングを積み、強化の一環としてベルリンマラソンにも出場した。