野球善哉BACK NUMBER
百獣の王の野球がなぜできない!?
投打共に充実のはずの西武の苦悩。
posted2016/01/03 10:50
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
Nanae Suzuki
Number Web版“プロ野球・ゆく年くる年”企画は、全12球団の短期集中コラムシリーズです。年末年始にかけて、全12球団の2015年の振り返りと2016年の夢を、チームへの思い入れたっぷりの筆致でお伝えいたします!
第10回目は2015年にシーズン216安打という偉大なる記録を打ち立てた秋山翔吾擁する埼玉西武ライオンズです。
そのニュースは、このオフ静かだった西武のストーブリーグ戦線において、もっとも大きな動きだった。
ヘッドコーチに、長く次期監督と期待されてきた潮崎哲也氏を抜擢したこと。
6月以降、ほとんど登板のなかった富士大の多和田真三郎をこの秋のドラフトで単独1位指名したにとどまらず、エースナンバーの「18」を与えたこと。
――ではない。
2016年シーズンへ向けての組閣の中で「作戦コーチ」というポストを設けたことだ。
そのポストには、元楽天の橋上秀樹氏が招聘された。これは、2015年の西武にとって懸案事項だった部分を補おうとしたとみて間違いはないだろう。
2015年シーズンの戦いにおいて、田辺徳雄監督の采配は、その節目節目において的を射ているように思えなかった。
クローザーの高橋朋己が7月2日のソフトバンク戦で救援に失敗して以降、調子を崩してしまったことには同情する。だが田辺監督は、7月15日から13連敗を喫すると、序盤戦までとは人が変わったような内容で采配を振るようになってしまったのだ。
毅然とした態度や言葉は監督然としていたが、それとは裏腹の弱気な采配は、記者席でも話題になったほどだった。
200本安打男に送りバンドを命じる采配。
もっとも顕著だったのは、9月21日のオリックス戦だ。
結果的には大勝したものの、この先を暗示しているかのような弱気な采配だった。
この試合はCS進出を懸けての戦いだったが、相手のオリックスは、勝利というより違うものと戦っているチームだった。来季へ向けての戦力探しと人員整理。この日は、西武が勝ち頭の十亀剣を立てていたのに対し、オリックスは育成から舞い戻り、今季9試合登板で1勝の近藤一樹だった。決して一戦必勝の戦いをしている風ではなかったのだ。
そんな両者の温度差がみえた試合の3回裏、1つ目の“事件”が起こった。
西武は先頭の9番・金子侑司が右翼二塁打で出塁。先制の好機をつくって1番・秋山翔吾を迎えた。
この頃の秋山は絶好調だった。この時点で、すでにシーズン200安打を記録。見ているものの興味は、秋山がこれからどれだけの安打を重ねていくかという段階にあった。
ところが、この勝負どころのゲーム、それも試合序盤で、田辺監督は200安打の秋山にバットを振らせない選択をしたのだ。つまり、送りバントを命じたのである。