野球善哉BACK NUMBER
百獣の王の野球がなぜできない!?
投打共に充実のはずの西武の苦悩。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNanae Suzuki
posted2016/01/03 10:50
来季のスローガンを「BEAST! 強く、猛々しく。」と発表した西武。「(2016年は)百獣の王ライオンのように強く、猛々しく戦いたい」とコメントした。
開幕当初は攻撃的野球を標榜していた田辺監督。
秋山の記録のことを言いたいのではない。相手は、仮にもシーズン1勝しかしていない投手である。力関係、さらに秋山が左打者であることを考えれば、最低でも進塁打は打てるだろう。うまくいけば、適時打という幅広い選択肢さえ見えたはずだ。
にもかかわらず、秋山という当時もっとも安打を打っている男に犠打を命じたのだ。
結果的には秋山が犠打を成功させ、続く渡辺直人の適時打などで4点を先取した。この弱気な采配は勝利によって問題視されることはなかったが、シーズン200安打を達成した男に下したこの作戦が果たして本当にファーストチョイスだったのだろうか。シーズン前からの田辺監督の強気な姿勢から考えれば、ものすごく不可解に映った。
そもそも、シーズン開幕前の田辺監督は栗山巧を2番に据えるなど、攻撃的野球を標榜していたはずだった。
開幕してから栗山の調子は良くなかったが、それでも田辺監督は、頑として栗山を2番に据える戦いを選んだのだ。それが、中盤までの西武の成績に表れていた。
戦い方を変えることは悪いことではないが、秋に入っての西武に勢いを感じなかったのは、その采配の違いによるところは大きいだろう。
目先の勝負にこだわり、その先を見てないのでは。
2つ目の事件は同じオリックス戦、8回表の投手起用についてだ。
3回の好機で4点を先取した西武は、試合を締めにかかっていた。先発した十亀が7回を0封。8回に高橋朋が登板し、9回はクローザーの増田達至というのが誰もが描いた青写真だった。
ところがその8回、1死からなんでもない遊撃ゴロを金子侑が失策。2死後に高橋が四球を出すと、あっさり高橋に代えて、クローザーの増田を投入したのだ。
2死であること、4点のリードがあること、あるいは先の戦いを考えたとき、シーズン途中まで全幅の信頼を置いていた高橋朋への配慮が必要なこと。それらを考えると、どうしても目先の1死にとらわれた感は拭えなかった。
この攻撃を抑えた後の8回裏、西武は3点を追加する。1死二塁から今度は強攻策に出て、秋山が適時二塁打を放った。秋山は打たせたほうが怖いのだ。そして、9回は7点リードがありながら、増田をおろすことなく、そのままマウンドに立たせた。
7-0の完勝。
表に見えるものだけ見れば何の問題もないような試合だが、この先を案じたのは、筆者だけではなかったはずだ。