プロレスのじかんBACK NUMBER
6年連続1.4のメインを務める男、
新日エース・棚橋弘至は一体何者か!?
text by
井上崇宏Takahiro Inoue
photograph byEssei Hara
posted2015/12/25 16:10
「(1.4東京ドームでは新闘魂三銃士だった)3人が王者になるかも。全員揃ってベルトを巻いたら、どんな景色が見えてくるのか……」とコメントした棚橋。
「よく怒って、よく泣くヤツだな」
2014年。G1の公式戦で闘った。自分が勝った。彼は試合後、泣いていた。「よく怒って、よく泣くヤツだな」と思った。
G1が終わった翌9月、神戸でふたたびシングルで当たった。今度は自分が負けた。試合後、どちらからともなく歩み寄り、自分にとってもまさかの握手をした。そして彼はこう言った。
「ヤングライオンの頃を思い出しますね」
そのとき、なんて言うか、初めて彼の“本音”の言葉を聞いたような気がした。そして自分も咄嗟に本音が口をついて出た。
「俺のいない10年間、新日本を守ってきてくれてありがとう」
棚橋とオカダがキラキラして見えた瞬間……。
先日、12月19日。後楽園ホールで2015年最後の試合があった。自分と棚橋クンが組んで、オカダ・カズチカ、石井智宏組と闘った。これは要するに1.4前の最後の前哨戦ということになるのだろうが、新日本プロレスの年間最後の試合、そのメインを棚橋クンとのタッグで行なうということ。これは3年前には考えられないことだった。G1、神戸、その後のシリーズフル参戦。いや、あの同じ日に入門テストを受けた日からのすべてが繋がってできたこの形。非常に感慨深かった。
その試合中、とても奇妙な体験をした。いつものように、自分は石井とボロボロになるまでやり合って、ボロボロの状態でコーナーに棚橋にタッチを繋いで、リングの下に転げ落ちたとき。その、ふとしたほんの一瞬だけなんだけど、リング内を第三者的に見た瞬間があって。棚橋クンとオカダが激しく攻防をしている姿が、とてもキラキラして見えたっていうか、語弊を恐れずに言えば、すげえプロレスを楽しんでるなって。そのプロレスが放つエネルギー。ああ、ファンはこうしてプロレスから元気をもらってるんだなって。自分はプロレスラーにもかかわらず、しかも試合中にもかかわらず、「プロレスのエネルギーってすげえな。俺もプロレスを楽しんじゃおう」って思っちゃって。「棚橋、いけー!」と思ったし、「(タッチを)貸せー!」と思ったし。そんな元気になれた瞬間があって。あれはすごく不思議な感覚だった。
棚橋弘至は新日本のエース。自分でそう言っちゃってるし、実際にしっかりエースをやってるんだと思う。彼が「俺がエースだ」って言ってることに対して、誰も「おまえはエースじゃない」って言えない。アイツは間違いなくエースだし、新日本の顔。これまで、そういう存在になるぐらい、この新日本プロレスを引っ張ってきたんだなって、自分はそう思っています。
2015年12月24日 柴田勝頼(談)