プロレスのじかんBACK NUMBER
6年連続1.4のメインを務める男、
新日エース・棚橋弘至は一体何者か!?
text by
井上崇宏Takahiro Inoue
photograph byEssei Hara
posted2015/12/25 16:10
「(1.4東京ドームでは新闘魂三銃士だった)3人が王者になるかも。全員揃ってベルトを巻いたら、どんな景色が見えてくるのか……」とコメントした棚橋。
「すいません、もう辞めます」という弟子に。
ある日のこと。わりと将来を期待されて入って来ていた新弟子がいた。そいつはとにかく根性がなくて、腕立てだったかスクワットだったか忘れたけど、それを1000回やれってときに自分が監視役をやっていた。そのときに200回もできなかったのかな。全然できないし、なんとか必死でやろうという意思も感じられなかった。そのときにその新弟子がこう言い出した。「すいません、もう辞めます」と。自分はちょっとだけ呆気にとられたが、「ああ、そうか。じゃあ辞めろ。早く荷物まとめて帰れ」って言って練習を切り上げさせた。こんなことですぐに夢を諦めるなんて、信用できないと思った。だけど棚橋クンは、そいつに「もうちょっとがんばってみようよ」みたいな感じで声をかけていた。その棚橋クンの言葉に意思が揺らいでいたのか、泣きながらいつまでもぐずぐずと居残っていたから、痺れを切らした自分は「いいから早く帰れ」と、その新弟子の荷物を2階の階段から1階の玄関先に放りなげた。その瞬間、棚橋クンが珍しく怒った。
「そんなひどいことをしなくてもいいじゃないですか!」
そう声を荒げて自分に詰め寄ってきた。結局、その新弟子は泣きながら「ありがとうございました」って言って合宿所を出て行ったんだけど、2階の窓からその出て行く様子を見ていたら、そいつ、合宿所を出た瞬間に携帯電話を取り出して、タクシーを呼んでて(苦笑)。
「棚橋クン、ほらね」「さっきはすいませんでした」みたいな。
ひょっとして他人に対して無関心なのかな、と。
そのときの、その新弟子に対する言葉っていうのは、棚橋クンなりの優しさなんだろうけど、果たしてそれが本当に本人にとっての優しさになるのかはわからない。だって自分たちは己に厳しく、プロレスはこういう世界だということがわかって厳しい練習を実践してきているのに。自分が思う本当の優しさっていうのは、そいつのことを思って、いいところはいい、ダメはものはダメだとちゃんと伝えてあげることだと思っている。だから、棚橋クンはひょっとして他人に対して無関心なのかなって感じるときがある。優しさなのか、じつは適当なのかって。
実際のところ、なにを考えてるのかなって思うことがある。接していて「それ、本当に思ってる?」みたいなことがすごくある。ただ、それを貫き通してるので、それはそれで本当の彼なのかな。覆面を被ってない覆面レスラーみたいな……。