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「絶体絶命」からの劇的なV9防衛達成。
山中慎介が語ったモレノ戦の“冷静”。
posted2015/12/11 14:50
text by
Number編集部Sports Graphic Number
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
WBC世界バンタム級チャンピオン、山中慎介へのインタビュー(Number891号掲載)は11月半ば、文藝春秋の社内で行われた。午後、エントランスで来訪を待っていると、グレーのスーツを身にまとった山中は歩いてやってきた。中央線の電車を四ツ谷駅で降り、10分ほどかけて、てくてくと歩いてきたという。
世界王座を防衛することすでに9度。“神の左”と恐れられる左ストレートを最大の武器とし、人気、実力ともに日本でトップクラスのボクサーだ。その彼が、インタビュアーを務める二宮寿朗氏が一緒とはいえ、平然と電車に乗り、タクシーを利用することもなく歩いてやってくるとは――。
そんな登場の仕方からは、リングを降りた33歳が自らを過大に誇示することもなく、等身大の日常を送っていることが察せられた。
インタビューのメインテーマは、9月に行われた9度目の防衛戦について。元WBA世界バンタム級スーパーチャンピオンで、約6年にわたって12度の防衛を果たした挑戦者アンセルモ・モレノとの一戦を自らの言葉で語ってもらうことになっていた。
それは、2カ月の時を隔てても、改めて振り返るだけの価値がある試合だったからだ。
なかなか出ない“神の左”に緊張感が漂う。
9月22日、大田区総合体育館。
難敵を迎えたV9戦をライターの二宮氏と肩を並べて観戦したが、その試合内容はこれまでの山中のものとは明らかに異質だった。
“亡霊”の異名をとるモレノは、鉄壁の防御を誇る。山中は必殺の左ストレートで仕留める機をうかがう。サウスポーどうし、右ジャブを差し合う展開は、派手なパンチの応酬がない代わりに観客に息をのませる緊迫感が漂っていた。
4ラウンド終了時、山中が僅差ながらリードしていることがアナウンスされると満員の会場は安堵するかのように沸いた。だが次のラウンドから、モレノが攻めに出る。重さはないが、いくつかのパンチが山中にヒットする。相変わらず“神の左”は炸裂の気配がない。じりじりした空気の中、ラウンドを重ねていく。
会場に緊張が走ったのは8ラウンド終了時、一転してモレノがポイントでリードしていることが明らかになった時だった。