ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
商社マン・木村が弁護士王者に勝利。
ボクシングW世界戦で目撃した勝負の妙。
posted2015/11/30 11:30
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Kyodo News
仙台市のゼビオアリーナ仙台で28日、ダブル世界タイトルマッチが行われた。日本の江藤光喜(白井・具志堅スポーツ)と木村悠(帝拳)がそれぞれメキシコ人王者に挑み、木村が逆転の2-1判定勝ち(115対113×2人、111対117)で戴冠、江藤が大差判定負け(111対117×2人、112対116)と明暗がくっきりと分かれた。
木村はWBC世界ライトフライ級王者、ペドロ・ゲバラに挑んだ。法政大学で全日本選手権を制し、エリート選手として大手の帝拳ジムからプロデビューしたのが2006年。本当なら既に世界挑戦をしていてもおかしくないが、日本王座を獲得する前に敗北、引き分け、勝っても苦戦とキャリア中盤で足踏み。敗北を機に恵まれたボクサー生活と決別し、サラリーマンとして商社に勤務しながら世界を目指した苦労人である。
序盤は木村にとって散々な展開となった。ゲバラにいいように試合を支配され、完全な“惨敗”ペース。5回に右を食らって足元をフラつかせたときは、思わずリングから目をそらしそうになったほどだ。
しかし、このあまりの劣勢が奏功するのだから分からない。「いいのをもらって吹っ切れた。もう開き直って前に出た」という木村は、6回からグイグイとゲバラにプレッシャーをかけ、ボディブローと右ストレートを打ち込んでいくと、チャンピオンが少しずつ失速。リズムを崩したゲバラは途中で立て直すことができず、木村が2-1の際どい判定でタイトルを獲得したのである。
ゲバラは完全に木村を甘く見ていた。
木村の奮闘もさることながら、印象に残ったのはチャンピオンが王座から陥落する姿だった。
はっきり言えば、ゲバラは木村を甘く見ていた。
ゲバラがタイトルを獲得したのは昨年暮れ、八重樫東(大橋)との王座決定戦だった。八重樫はそれまで2階級で世界王座に就いており、スピードとパンチ力を備え、激戦を勝ち抜くタフネスも持ち合わせる実力者だ。それに比べ、木村は試合前の時点で17勝3KO2敗1分という戦績が示すように、パンチがなく、目を見張るようなスピードがあるわけでもない。細かい駆け引きが得意とはいえ「怖い」と思わせる要素はどこにもないのだ。
八重樫戦後に2度の防衛を成功させたゲバラが、よもやこの試合でベルトを奪われるとは思っていなかったことが、リング上の動きによく表れていた。