ピッチ上のそれとはかけ離れた表情。

「僕はストライカーだ。子供のころから、点を取ることだけを考えてきた。ゴールを決めるのが仕事だとは、今でも思う。ただ、それだけではここではやっていけない」

　繰り出す言葉には、トリデンテを構成する彼にしか語れない考えが宿っていた。どこか田舎くさい、独特のウルグアイのアクセントが、場の空気を柔らかくする。

　撮影に入ると、実に様々なポーズを取ってくれた。わざわざ声も出してくれた。

「バモオオオス！」

　しんとしたスタジオに、スアレスの大声とカメラのシャッター音が響き渡る。

　少しはにかんだ表情は、ピッチの上の戦士のそれとはかけ離れていて、スアレスという男への興味をさらに増幅させるのだった。

スアレスがまたやった！

　インタビューから数日後のこと。

　スアレスが激しいブーイングを浴びていた。試合中、ずっとやりあっていた相手センターバックのアブデヌールの足を、思い切り踏みつけたのだ。アブデヌールは倒れこみ苦悶の表情を浮かべた。しっかりと主審の位置を確認していたスアレスはお咎めなし。数分後にはさらりと先制点を決めた。

「わざとじゃない。それに、もう謝った」

　試合後、スアレスは飄々と言った。いたずらをして口をとがらせる少年みたいだった。

「こんなのサッカーの試合ではつきものだ。自分もやられてるし。悪気があったわけじゃない」

　映像を見る。センターバックとストライカーの永遠のバトル、その延長線ではあるが、意図的に踏んだとされてもおかしくはない。世論は「スアレスがまたやった！」というものが大半だ。

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