Jをめぐる冒険BACK NUMBER
福岡にあり、C大阪になかったもの。
J1昇格は「拠りどころ」のある者に。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byAFLO
posted2015/12/07 15:00
FC東京、大宮でJ1の戦いを経験してきた中村北斗が福岡昇格の殊勲者となった。来季、再びJ1の舞台でどんな戦いを見せるのか。
3位のアドバンテージを生かすだけの力を養ってきた。
1点取ればいい。同点に追いつくだけでいい。
その状況こそ、まさに福岡がシーズンを通して右肩上がりの成長を遂げ、3位の座を手にしたからこそ掴めたアドバンテージだった。
もっともそのアドバンテージも、同点に追いつかなければ効力を発揮しない。しかし追いつくだけの力が福岡にはあり、そのための力を彼らはシーズン中に養ってきた。
3バックを導入して守備戦術を整備し、粘り強さと「全員守備・全員攻撃」の意識をチームに植えつけてきた井原正巳監督が言う。
「主導権を握れていない時間帯でも、全員の力でしっかりとゲームをコントロールして、少ないチャンスでもゴールを挙げる。そういう逞しさや勝負強さはこの1年でかなり付いたのではないかなと思います」
その少ないチャンスが福岡にめぐってきたのは、86分だった。
左サイドで仕掛けた金森健志からオーバーラップしてきた亀川諒史にボールが渡り、グラウンダーのクロスが流し込まれる。
ところが、ゴール正面で中原貴之が合わせ損ない、ボールはゴール前を横切っていく。
万事休す――。そう思った瞬間にファーサイドに走り込んできたのが、右ウイングバックの中村北斗だった。
角度のないところから放たれた渾身のシュートが逆サイドネットに突き刺さる。こうして、福岡が3位のアドバンテージを生かせる状況に持ち込み、C大阪の捨て身のパワープレーをしのぎ切った。
山口蛍「難しい1年ではありました」
「難しい1年ではありました。もっと上手くできたな、っていうものもある。そういうところを探せばたくさんあるので、何かひとつは挙げられないですね」
そう言って表情を曇らせたのは、C大阪のキャプテン山口蛍である。
二度の監督交代の末にJ2に降格し、1年でのJ1復帰を誓った今シーズン。ブラジル人指揮官、パウロ・アウトゥオリを新たに迎えたが、チームの陣容はなかなか定まらず、初の連勝は第10節まで待たなければならなかった。
夏にチーム最多得点のフォルランが退団して攻撃陣の再編を迫られると、10月には指揮官が辞任を匂わせ、チーム内に動揺が走った。結局、リーグ戦残り1試合という段階になって指揮官の交代が決まり、強化部長だった大熊清が監督に就任した。