相撲春秋BACK NUMBER
33歳小結、なお伸び盛りの嘉風。
中年サラリーマン奮起のヒント。
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph byKYODO
posted2015/12/02 10:30
九州場所2日目、大関稀勢の里を肩透かしで破った嘉風。この前日には横綱鶴竜を倒す金星をあげるなど勢いに乗った。
「相手より少しだけ早く動けばいいだけなんだ」
4.「周囲の意見に聞く耳を持つにも、やはり自分で気づくしかない」
「解説の親方によく言われていたのが、『嘉風は無駄な動きが多い。バタバタしている』ということ。それを素直に受け止めていて、そう指摘されないようにしようと、萎縮していた時期もあるんです。でも、周りにどう言われてもいいから、自分の思うとおりやったほうが、自分は納得できると思った」
そう開き直りつつも、ある日、自分自身で実感することがあった。
「確かに、なんだか“ひとり相撲”を取ってるようなバタバタ感があったんです。よくよく考えて、『自分の動きが速すぎるんじゃないか。相手を見てから、ゆっくり目に動こう。相手より少しだけ早く動けばいいだけなんだ』と、ここ最近、発見したんですよね」
「ひとつ上のステージに行ったかなぁ」
5.「ポジティブシンキングと“有言実行”」
九州場所で14日目に勝ち越しを決めた嘉風は、千秋楽後にすがすがしい笑顔でこう言った。
「今場所は長かった! 楽しめましたけどね。初日(対鶴竜)、二日目(対稀勢の里)といい形で勝って、それから変な欲も出てしまったんです。だから今場所は、感情の変化についても勉強になった。勝ちたい気持ちを抑えて行く、というね。ひとつ上のステージに行ったかなぁ(笑)。場所後に故郷の佐伯市で巡業があるんです。佐伯巡業が開かれるのを知った6月から、故郷を盛り上げるために、ずっと『結果を出す!』と言い続けて来たんですよ。だって僕の成績次第で、お客様の入りが違うでしょ?」
言葉の通り、7月の名古屋場所では前頭八枚目の地位で12勝、敢闘賞を受賞し、翌9月秋場所では殊勲・技能賞も。この11月九州場所でも技能賞を受賞し、なんと3場所連続三賞受賞を果たす活躍ぶりだった。その原動力ともなったのが、郷土出身力士の「責任感」でもあったのだろう。
「『新関脇として地元に帰りたい』と言っていたけれど、今場所で小結として勝ち越して、関脇昇進できそうな成績で故郷に帰れる。そう、“有言実行”ですよ!」
家族の住む自宅と、所属する尾車部屋が遠いことから、朝の満員電車で通勤していたこともある、かつては「サラリーマン力士」だった嘉風。遅まきながら、今、仕事が――相撲を取るのが楽しくてしょうがないのだと言う。
今、嘉風に学べ。