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日本が失った“アジアNo.1”の座。
男子4×100mに何が起こったのか。
posted2015/08/30 11:45
text by
宝田将志Shoji Takarada
photograph by
AFLO
北京国家体育場、通称“鳥の巣”に「ハッピーバースデイ」の歌が響いた。スタジアムの1、2階席を埋め尽くした中国の観客が大きな声を揃えている。陸上の世界選手権男子400mリレー(4継)決勝が終わった直後の一幕である。
祝福の歌を贈られたのは中国の3走、蘇炳添(スー・ビンチャン)。29日が26歳の誕生日だった。
まさか、世界陸上の記者席で、この大合唱を聞くことになるとは――。そう思いながら優勝を飾ったジャマイカのウサイン・ボルトに視線を移すと、穏やかにチームメートと喜びを分かち合っていた。2大会連続3冠を達成した安堵か、それとも盛り上がる中国チームと観客への遠慮か。
決勝はジャマイカに続いて米国がフィニッシュラインを駆け抜けたが、3、4走でバトンがゾーン内で渡っておらず、その後失格に。これに伴って38秒01で3位だった中国が繰り上がりで銀メダルとなった。観衆のボルテージも上がるというものだ。
7年前、北京五輪で日本がやったことを中国が。
大会前、日本の土江寛裕コーチが語っていた言葉が思い出された。
「中国は完全にメダルを狙ってきている。日本が北京五輪でやったことを(自分たちで)やりたいんだと思う」
7年前の北京五輪男子400mリレー、銅メダルを決めた日本の朝原宣治はバトンを高く放り投げた。そのスタジアムで、今度は中国のメンバー4人が並んで国旗を誇らしげに掲げていた。
アジアの国でも38秒に近いタイムをコンスタントに出していれば、強豪国のバトンミスなどワンチャンスを生かして表彰台に絡めることを、再び証明した格好だ。
この喧噪の中に日本はいなかった。すでに予選で敗退していたからである。