野ボール横丁BACK NUMBER
「抑えられたら必ずそのボールを狙う」
清宮幸太郎が甲子園にした“忘れ物”。
posted2015/08/19 16:30
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Hideki Sugiyama
記者に囲まれた清宮幸太郎は、初めてうつむいていた。
長いまつげが濡れ、束になっていた。
堪えていた涙があふれ出したのは、三塁側ベンチからバックネットの前を通過し、グラウンドを引き上げるときだった。左の視界には、バッターボックスから見慣れた甲子園の景色が広がっていた。そびえ立つスタンド、クラシカルなデザインの濃緑のスコアボード。
「もうここではできないんだな、もう去らなければいけないんだなと思ったら……。泣くつもりはなかったんですけど……」
甲子園5試合目にして、仙台育英のエース佐藤世那の前に、初めて打点「0」に終わった。3回、2死一、二塁の場面で唯一の安打となるセカンドへの内野安打を放ったが走者を迎え入れることができなかった。
「打てないとびっくりするようなボールではなかったんですけど、フォークと、ストレートの組み合わせで、うまいことやられちゃったという感じです」
敗北は素直に認めたが、相手が上だったかという質問に対しては、抵抗を示した。
「どうっすかねえ……。それは(相手が上だと認めることは)悔しいんで」
相手監督に「うらやましい」と言わせたスイング。
全5試合で、2本塁打を含む19打数9安打と大暴れ。甲子園に来てからの自身の成長についてはこう語る。
「力を抜いてプレーできるようになった。楽しんでやれば、おのずと結果もついてくる。軽く打っても飛んでくれることがわかった」
そのことを裏付けるように、試合前、仙台育英の監督・佐々木順一朗は清宮について尋ねられるとこう感嘆していた。
「そら、すごいっすよ。あんなにきれいにバットが出るんですもんね。怖さをまったく感じてないんでしょうね。打たなきゃいけないという意識もぜんぜん感じない。うらやましいですよ」