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「おまえのプレッシングは素晴らしい」
マインツ監督絶賛、武藤嘉紀の献身。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byBongarts/Getty Images
posted2015/07/30 17:30
攻守に膨大な運動量と献身性を見せつけていた武藤。試合後は「かなり良かった」と自身のプレーに満足していた。
エゴイストなだけでも、献身性だけでも足りない。
もちろん、武藤は攻撃でも献身的な姿勢を見せた。
象徴的なのは、前半43分のアシストのシーン。マインツのセンターバック・バログンは、前に出てパスをカットするやいなや、左サイドのスペースへパスを送った。この時武藤は既にスペースに向かって走り出しており、バログンがカットを狙って前に出た時点で動き出していた。
ラツィオにとっては、攻撃から守備に局面が変わった直後のタイミングで、DFラインは揃っていない。つまり、オフサイドはない。武藤はそのまま一気にペナルティエリアまで運ぶと、相手GKが前に出てくるのを見て、左足でファーサイドにボールを転がす。そこへ後方から走りこんできたマリが、フリーで無人のゴールにけり込んで先制点が生まれた。
「(シュートには)角度があまりなかったですし、あきらかに中がドフリーだった。もちろん自分もゴールは欲しかったですけど、パスのほうが確率が高かったのでパスを選択しました」
それが武藤のコメントだ。かくして、マリにプレシーズンはじめてのゴールが生まれ、2人は抱擁をかわした。
前線からの守備に、味方のためのチャンスメイク。前日の練習で見せた強引なプレーとは打って変わって、この日はチームメイトのために献身的に働けるところを見せた。
シュミット監督もご満悦だった。
「今日のヨシはもう……まるでシンジ(岡崎慎司)みたいに働いてくれたね。モチベーションが高く、とても勇敢にプレーしてくれた」
エゴイストなだけでは足りない。チームへの献身性だけでも足りない。両方を備えてこそ、競争の激しい攻撃のポジションで活躍できるのだ。
会見で発言した「意識していたのはスアレス」。
思い起こされるのは、武藤の入団記者会見。マインツのハイデルGMが武藤の移籍の交渉のために、日本に“日帰り”で訪れた事実をスクープした『キッカー』誌のベニー・ホフマン記者が、武藤に理想とする選手をたずねたときのことだ。
「FC東京では今年と去年とセンターフォワードをしていたんですけど、その時に意識してたのはバルセロナのスアレス選手。攻守で前からハードワークをするところとか、確実にゴールを決めていくところは、自分が見習わなければいけないと思ってプレー集をよく見ていました」
攻守におけるハードワーク。自ら仕掛けていく力強さと、チームのために汗を流せる献身性。昨シーズンのバルセロナのCL優勝に多大なる貢献をしたスアレスのような、二面性を武藤はこの2日間で見せつけたのだ。
だからだろう、シュミット監督はこう断言した。
「(武藤は)良い道を進んでいる。彼はチームに『100%』フィットするさ」