サムライブルーの原材料BACK NUMBER
ピッチの「内外」で信頼される男。
“宴会部長”槙野智章の偉業の数々。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2015/07/31 11:00
代表でも吉田麻也とCBコンビを組んでスタメンに名を連ねる試合が増えた槙野智章。キャラクターの印象が先行しがちだが、今季の浦和の堅守は槙野の守備力によるところも大きい。
ザックでもハリルでも、槙野は「いじる」!
ザッケローニの専属通訳を務めた矢野大輔氏の著書『通訳日記』にはこんなくだりがある。
「槙野が自分の体に『祝ザッケローニ』『試合出して』とペインティング。皆で大笑いした」
まさに体を張ったチャレンジ。お互いを知っている間柄ならともかく、出会って間もない人、それも監督に対して『試合に出して』というギャグが伝わるかどうかも分からない。でもみんなが笑ってくれれば、それでOKということなのだろう。
実は、ハリルホジッチに対しても“監督いじり”を実行に移していたことはあまり知られていない。見るからに厳格そうな監督だけに、まあよくもやったものだ。
日本代表監督デビューとなった3月の親善試合に向けた合宿の際、夕食後に行なわれた誕生日会に槙野は赤フン姿で登場して用意したネタを披露したという。
イチッ、ヨッチ。
ニッ、宇佐美貴史ッチ。
ここでまずひと笑いが起こる。ブレイク中の武藤嘉紀の愛称を振りにして同じくブレイク中の宇佐美に「ッチ」をつける意外性で選手たちの心をくすぐった。何人かは思ったに違いない、まさか次に……。
期待を裏切らないゆえの宴会部長。
サンッ、ハリルホジッチ!
その瞬間、会場は大いに盛り上がりを見せたという。「監督も笑っていた」という証言もあり、“監督いじり”のチャレンジ芸を無事、成功させたのだ。これが本田誕生日会の「君に時間を与えよう」につながるわけである。
前回の東アジアカップでも、槙野が空気を作っていた。
サッカーも全力、盛り上げも全力。
2年前、韓国で優勝した東アジアカップを思い出す。メンバーの大半が初招集というなかで、お互いの持ち味を出しつつもまとまりを見せたチームだった。オーストラリア戦で先制ゴールを挙げるなど活躍した齋藤学は、森脇良太、そして槙野の名前を出して「あの2人がチームをうまく盛り上げてくれたことも大きかったように僕は感じる」と語っていた。
ザックジャパンの場合は非公開練習が主だったが、この大会はほぼ公開。筆者も練習では森脇とともに、槙野の声がとにかくよく響いていたことを記憶している。戦術練習でちょっと全体の動きが重くなると「やろうぜ」「行こうぜ」と手を叩いて叱咤していた。