Jをめぐる冒険BACK NUMBER
鹿島・石井監督の会見で起きた拍手。
“ジーコ・スピリット”は再び宿るか。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2015/07/29 10:40
Jリーグ開幕から数年間鹿島アントラーズの主力として、後の礎を築いた石井正忠新監督。監督代行を除けば、初代監督の宮本征勝以来21年ぶりの日本人監督となった。
何度も世代交代を乗り越え、黄金時代を築き上げた。
そこで思い出したのは、昨季限りで現役を退いたアントラーズのOB、中田浩二さんの言葉だ。中田さんは入団当時の練習の雰囲気について、こんな風に言っていた。
「紅白戦では削られるし、怒られるし、本番さながらに言い合いやケンカが始まるし。最初はやっぱり怖かったですよ。でも、そんな厳しい環境でできたのは幸せでした。怒られることによって“なにくそ”っていう気持ちが芽生えたし、あの環境で練習できたから試合で自分のプレーが出せた。だって、公式戦よりも紅白戦のほうが激しいんだから」
中田さんは、こうも言っていた。
「勝利へのこだわりというのは、自分で感じ取らなければいけないことだし、言われたところで自分が感じなければ意味がない。先輩たちは本当に勝利にこだわっていたし、公式戦に出られなくても黙々と練習していた。例えば、コーチから“ベテランは上がっていいぞ”っていう声が掛かったのに、先輩たちは上がらない。そういう姿を見て、僕らも学んでいったんです」
もっとも、練習を切り上げなかった先輩たちも、それを見て学んだという後輩たちも、「ジーコ・スピリット」や「勝者のメンタリティ」を簡単に手に入れたわけではない。
ジーコが夏に引退した'94年と翌'95年は無冠に終わり、'03年から'06年までの4シーズンも主要タイトルから見放されている。
だが、いずれの時代も世代交代の波を乗り越え、「強い鹿島」を取り戻し、黄金時代を築き上げた。こうした成功体験こそが、クラブの財産だろう。
“セレーゾ・チルドレン”の代表格、土居聖真。
アントラーズが現在、再び困難な時期を迎えているのは、間違いない。ここ5年で内田篤人、大岩剛、新井場徹、興梠慎三、岩政大樹、大迫勇也、中田浩二といった主力選手が次々とチームを離れ、とりわけ昨季はトニーニョ・セレーゾ前監督によって20代前半の選手たちがスタメンに抜擢されるようになった。
「常勝軍団って言われるプレッシャーは、少なからずあります」
そう明かしたのは、“セレーゾ・チルドレン”の代表格であり、アカデミー育ちの23歳、トップ下を務める土居聖真である。だが彼は、それを打ち消すように続けた。
「でも、それを背負いながら力に変えていくしか道はないと思うし、今は苦しい時期を迎えていますけど、たくさんもがいて、乗り越えたときに初めて常勝軍団になれるんじゃないかなって。
(ジーコ・スピリットや勝者のメンタリティを)教えてくれる人は誰もいないし、教えてもらうものでもないと思う。自分で掴みとって、身につけていかなければならないもの。そのためには本当に勝つしかないと思います」