松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
松山英樹が自信を取り戻す方法は?
ミケルソンもウッズも“祈る”全英OP。
posted2015/07/17 11:20
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph by
Maki Uchida
第144回全英オープン初日の朝。ゴルフの聖地、セント・アンドリュースは冷たい空気に包まれていた。
午前9時33分。1番ティには世界の視線が注がれていた。それもそのはず、今季のマスターズと全米オープンを続けざまに制したジョーダン・スピースが、これからティオフしようとしていたからだ。
そう、スピースは今ゴルフ界で「最もホットな男」だ。だが、そんなスピースを抑え、この地で勝利を挙げることができたら、スピースのメジャー3連勝と年間グランドスラム達成を阻止した「もっとホットな男」として歴史に刻まれ、クラレットジャグを掲げることになる。スピースと同組で回るダスティン・ジョンソンと松山英樹は、その希少なチャンスを目指しつつ、ティオフを待っていた。
ジョンソンは4週間前の全米オープンで、優勝目前まで迫りながら、72ホール目で喫した3パットで勝利をスピースに譲った因縁がある。「今度こそは――」。そんなリベンジへの誓いが彼の張り詰めた表情から伝わってきた。
松山には昨秋のダンロップフェニックスでスピースと優勝争いを演じ、勝利した経験がある。メジャー優勝はスピースに先を越されてしまったが、「今度こそは――」という想いは松山の胸の中にある。
拍手に応える仕草は、平常心の証だった。
そんな勝利への渇望は、いろいろな動作になって現われる。ジョンソンは、しきりに頭や顔を触り、落ち着きがない。松山もキョロキョロしながら方々に目をやり、米ツアーにおける日常と比べれば、やっぱりどこか落ち着きがない。だが、すでにメジャーチャンプになったという事実が貫禄をもたらすのだろうか。スピースだけは1番ティの横にスッと静かに立ち、微動だにせず時を待っていた。
そんな3人の対比が緊張感を増幅させる中、松山はアイアン型の2UTを握り、見事にフェアウェイを捉えた。第2打でピン1メートルへ付け、バーディー発進。2番は2メートルのバーディーパットがカップに蹴られてパーに甘んじたが、3番は再びピン1メートル半に付けて2つ目のバーディー。パー5の5番では2打でグリーンを捉え、3つ目のバーディー獲得。軽く挙げた右手をキャップのツバに持っていき、拍手に応える仕草は、すでに松山が平常心を取り戻している証だった。