F1ピットストップBACK NUMBER
亜久里絶賛の次世代F1ドライバー。
松下信治の急成長を見逃すな!
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph bySports Graphic Number
posted2015/04/26 11:00
1993年10月13日、埼玉県生まれの21歳。今季の所属先はフランスに籍を置くARTグランプリ。ハミルトンやロズベルク、小林可夢偉も在籍した名門だ。
鈴木亜久里が評価した21歳らしからぬ心臓の強さ。
評価されたのはタイムだけではない。
実際に現場で松下を見て、ドライバーとしての素養を高く評価した者がいる。それは、鈴木亜久里だ。
'90年に日本人として初めて表彰台に上がった亜久里が、最初に評価したのが心臓の強さである。
「予選の前日、夕御飯を一緒に食べていたときも、緊張したそぶりをまったく見せない。『どれくらい行ける?』って聞くと、『5番手ぐらい行けますよ』と平気で言うんだよ」
松下は直前に行なわれたテストで一度トップタイムを記録していたから、確かに手応えをつかんでいたのだろう。
しかし、テストと本番ではまったく違うし、松下がヨーロッパでレースするのは初めてだから多少の不安があっても当然である。
現にこれまでGP2を戦ってきた日本人ドライバーは、開幕戦ではまだいろいろと戸惑い、悩んでいた。ところが、松下にはそういうことがないのだ。
経験不足は確かだが、その一方でファステストラップも。
さらにもうひとつ、亜久里が挙げた松下の素晴らしさは、ドライバーとしての修正能力の高さだった。
「予選をスタンドの上から見ていたら、1セット目のタイヤの1周目のアタックでは低速コーナーの進入で早くインにつきすぎてしまい、コーナーの出口がきつくなっていた。でも、2周目のアタックのときには、もう修正していた。その後ピットインして、タイヤを履き替えて出て行った2セット目のアタックでは完全に直っていたから、いいタイムが出ると思っていたけど、まさか2番手になるなんて……」
残念ながら土曜日のレース1(GP2は2レース制)では、スタートでエンジンがストールしかけて失速し、大きく順位を落として10位に終わった松下。
しかし、日曜日のレース2では早くもその点を修正してスタートダッシュを決め、一時2番手を走行。最後は経験不足からタイヤを早く使い切ってしまい6位に終わったが、それでもファステストラップを記録するあたりに大器の片鱗を感じさせた。