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圧倒的な、あまりに圧倒的なV8。
山中慎介の「神の左」を支える名脇役。 

text by

二宮寿朗

二宮寿朗Toshio Ninomiya

PROFILE

photograph byHiroaki Yamaguchi

posted2015/04/17 11:25

圧倒的な、あまりに圧倒的なV8。山中慎介の「神の左」を支える名脇役。<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

山中慎介の「神の左」は、当てずとも存在だけで相手の動きを大幅に制限している。それでも、最後は左で締めたのが山中らしい試合でもあった。

「構えたときに、ジャブが一番有効やなって感じた」

 2、3、4ラウンドとラウンドを重ねるにつれて、山中のリズムがよりアップテンポになっていく。ジャブを突き、止まったら左ボディー。ジャブも多彩だ。あるときは距離を測り、あるときは左につなげる演出をする。ときおり、ストレートのような切れ味のジャブをまじえてサンティリアンの顔面を弾いた。

 角度もパンチの強弱も変える自在の右。山中の世界戦をこれまで会場で欠かさず見てきた筆者だが、ここまで右が自己主張する試合は初めてだ。ボクシングはサウスポーだが、中学までやっていた野球では右投げ。「肩は強いほうやと思いますよ」と語っていたことがふと思い出された。そう、元々、右にも自信がある。

 このジャブオンパレードの組み立ては、元々決めていたわけではなかった。試合後、山中はこう明かしている。

「(相手と向かい合って)構えたときに、ジャブが一番有効やなって感じたんです。どんどん出していこうと。そうしたらバンバン当たるんで、これで終わらせてもいいぐらいの気持ちで。右の練習もやってきましたけど、自分の場合、向かい合ったときの感覚でやる部分が大きいんで。この相手には右がいいのかな、と。あと、前のめりにならない、リターン(のパンチ)をもらわないように気をつけました」

相手は左を警戒するあまり、右が無警戒に。

 セコンドからは「ジャブでTKOできるぞ」との声が飛ぶ。サンティリアンは前に出ていくことができない。ジャブも得意の右も当てることができない。それはまさに山中がジャブとステップで距離を制し、必殺の左をちらつかせたからに他ならなかった。

 山中が言葉を続ける。

「タイミングのいいジャブと距離で(相手は)入ってこれなかったし、相手の右を打つタイミングで自分は左を狙うというのも、駆け引きのなかでやれていました。だから右も打てなかったと思う。自分としては相手の右にパンチを合わそうと思ったんすけど、なかなか打ってこなかったですね。距離も良かったし、構えているポジションも良かった」

 パートナーである大和心トレーナーもこう補足する。

「相手は左をとにかく警戒していました。左だけは外そう、外そうとしていましたから。実際、最初は左を当てにくかった。ただ左をずっと見ていたから、右があれだけ当たったんだと思います。左ボディーストレートを打って右で邪魔していくと、段々と左が上に当たるようになっていきました」

【次ページ】 5回まで完全試合、そして6回にダウンを奪い、7回KO。

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山中慎介
ディエゴ・サンティリアン

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