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圧倒的な、あまりに圧倒的なV8。
山中慎介の「神の左」を支える名脇役。 

text by

二宮寿朗

二宮寿朗Toshio Ninomiya

PROFILE

photograph byHiroaki Yamaguchi

posted2015/04/17 11:25

圧倒的な、あまりに圧倒的なV8。山中慎介の「神の左」を支える名脇役。<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

山中慎介の「神の左」は、当てずとも存在だけで相手の動きを大幅に制限している。それでも、最後は左で締めたのが山中らしい試合でもあった。

5回まで完全試合、そして6回にダウンを奪い、7回KO。

 5回までジャッジの採点は、3人すべて山中のフルマーク。少しの隙すら、この日の山中は見せなかった。

 主役級の働きをした「右」だが、名脇役らしく最後は主役のお膳立てをしている。

 手も足も出ない挑戦者は鼻血が止まらず、顔面血だるまの状態。クライマックスの瞬間は近づいていた。

 6回だった。

 サンティリアンが固める両腕のガードを、右のジャブをスッと間に入れてこじ開け、メガトン級の左ストレートが顔面を捉えた。初のダウンシーンに場内のボルテージが頂点に達した。

 前回のスリヤンとの防衛戦ではダウンを奪ったものの待機するコーナーにとどまらず、カウントを止められたことでKOを逃がした苦い教訓があった。それだけにこの日は「気をつけ、をしてました(笑)」と冷静にコーナーで待機。そして迎えた7回。右で相手のあごを上げさせておいてから、スーパーメガトン級の左ストレートであごを叩いた。

 ダウンしたサンティリアンは尻餅をついたまま、力なく首を横に振った。心までもが完全に折られていた。

相手のびびった感じは「うん、ありましたね」。

 大和トレーナーに肩車された王者は、左腕に力こぶをつくった。脇役の右こぶしが“見てください”とばかりに、その力こぶを指していた。

 右が演出した勝利ではある。

 だがやはり左あってこその右なのだとも思った。

 実は序盤に一度、サンティリアンの顔面をかすめた左ストレートがあった。捉えてはいないものの、あの威嚇が余計に左を警戒させていた。“右はもらっても、この左だけはもらっちゃいけない”という気持ちにさせていたのだ。

 大和トレーナーが言う。

「パンチがあるんで胸のほうに当たるだけで、まずは大体びびるんですよ」

 じゃあ序盤から相手のびびった感じは伝わってきた?

 大和トレーナーの言葉を受けてそう問うと、山中は大きくうなずいた。

「うん、ありましたね」と。

【次ページ】 右より、左よりも本人が満足した「自分のペース」。

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山中慎介
ディエゴ・サンティリアン

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