「あのシュートを止められなかったのは、僕の責任」

　小林のクロスから兵藤のシュートまでは、わずか数秒。兵藤に対しては、林が前に出てシュートコースを消そうとしましたが、ボールは林の脚の間を抜けて、ゴールに吸い込まれました。このわずかな時間に、兵藤はこう考えていたと言います。

「ゴール前に相手がたくさんいることはわかっていたので、こぼれてくるかなと思った。キーパーが出てきたのも見えていた。うまく股の間に転がせてよかった」

　一方、林はこう言います。

「8割方は、下に転がしてくるだろう。あとの2割は上に蹴ってくるという読みで、前に出た。雨が降っていて、スリッピーだった分、対応できなかった。チームのみんなは体を張っていた。その中で、あのシュートを止められなかったのは、僕の責任です」

　この日の林の走行距離は、4790m。それだけ走っても、勝負を決めたのはわずか数m間での駆け引きでした。

　この失点は、決してGKのミスではありません。それでも、「どうにかできたんじゃないか」「こうしていれば、止められたんじゃないか」と考えて、次に活かすのが優れたGKです。あの数mの悔しさを晴らすために、きっと林はもう走り出しています。