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町田樹、引退の言葉に思い出すこと。
自ら培った精神力と「普通の感覚」。
posted2015/01/13 10:40
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
AFLO
2014年12月28日から、2週間が過ぎた。
全日本選手権が終わり、リンクでは世界選手権の代表発表が行なわれていた。
そのときに発した町田樹の言葉と内容は、衝撃である一方で、ふと、つながったようにも感じた。
前日のフリーの「第九」のあとの言葉と、だ。
「ここまで来られた自分を誇りに思いますし、多くの方々の前で『第九』を滑ることができて本当に幸せだと思います。悔いはないです。失敗もあり完成度は低かったかもしれないですけど、僕のすべてを詰め込んだつもりです」
ジャンプのミスなどがあり、本来の出来ではない演技を終えたあとの言葉だ。
だが、強がって言っているわけではなかった。むしろ晴れやかな表情からは、やりきったという思いが伝わってくるかのようだった。
町田が引退を告げたとき、この言葉がすぐによぎったのを思い出す。
一足飛びに階段を上がってきたここ2、3年。
あらためて振り返れば、ここ2、3年の歩みは駆け足のようでも、一足飛びに階段を上がっていくかのようでもあった。
一般に、町田が急成長したシーズンとして捉えられているのは2012-2013年シーズンだ。グランプリシリーズで初めて表彰台に上がると、その後優勝も果たし、グランプリファイナルにも初めて進出した。
2012年12月の全日本選手権こそ9位に終わったものの、それまでと比べれば大きな成果のあったシーズンとなった。
そして2013-2014年シーズン、町田は前シーズンを超える活躍を見せた。グランプリシリーズは2大会ともに優勝。ついにはソチ五輪代表をもつかんで5位入賞を果たし、やはり初めて出場した世界選手権では銀メダルを獲得した。