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20歳の北島康介と20歳の萩野公介。
五輪、メダル、そして世界記録――。
text by
田坂友暁Tomoaki Tasaka
photograph byAFLO
posted2014/12/17 10:40
アジア大会では金4個を含むメダル7個でMVP、パンパシ水泳では金2個を含むメダル5個。萩野公介が歩む前人未到の道は、五輪の頂上まで続いているのだろうか。
専門種目という概念にとらわれない。
実は北島も、平泳ぎだけではなく自由形や個人メドレーでも日本のトップクラスの実力を持っており、世界と戦う道も存在した。しかし、彼は平泳ぎでトップに立つことを選択したのだ。
では萩野も北島のように種目を絞れば、20歳となる今年、世界記録を出すことができたのではないか? そういう考え方もあるかもしれない。事実、昨年を振り返った萩野は、こう話している。
「昨年の世界水泳選手権では、今思えばそんな実力も伴っていないのに、ただマルチスイマーというか、いろんな種目に出場するタフな選手になりたい、という思いだけで突っ走った。実力と見合っていないことをしたような気もしていますね」
ただ「だからこそ得られたことも大きかったし、自分の選択自体に全く悔いはありません」と続けた。
昨年がむしゃらに突っ走った経験が、今年のアジア大会でMVPを獲得する飛躍につながっているのだ。萩野には、「種目を絞る」という考え方自体が存在していない。彼の専門種目は、個人メドレーではなく「水泳」なのである。
萩野が目指す前人未到の道。
ソウル五輪で金メダルを獲得した鈴木大地や、バルセロナ五輪金メダリストの岩崎恭子も、2大会連続で金メダルを獲得するには至らなかった。それを果たした北島が進んだ道は、今まで日本人選手が誰も歩んだことのない道だった。
そして萩野が進もうとしている道も、誰も歩んだことのない道だ。かつて、マルチスイマーとして複数種目で世界大会のメダルを複数獲得した日本人選手は皆無で、萩野が目指す五輪での複数種目での金メダル獲得の例は、もちろんない。
北島と萩野の姿勢は、根本的な部分では何も変わらない。
「自分が得意としているもので世界と勝負する」
萩野が進む道は、単純に考えてひとつの種目だけに専念するよりも険しいのかもしれない。だが、自分が目指すものに向かって選択をした、という意味では北島との間に差はない。単純に、違う道を歩もうとしているだけなのだ。その過程において、結果の違いが生まれているだけである。