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賞金王・小田孔明の「屈辱と激情」。
負け犬、ケンカ、そして石川遼――。
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byAFLO
posted2014/12/10 10:40
JTカップを3位でフィニッシュし、36歳にして初めての日本賞金王に輝いた小田孔明。因縁の石川遼を5打上回り、また一つ借りを返した日でもあった。
偉大な先輩、尾崎将司の前で受けた屈辱。
「あの選手をいつか追い越したい」。そんな当たり前の憧れの気持ちを抑えることなく、恥をかき捨ててきた小田には、決して忘れることのできない1日がある。
'07年5月。岡山で行なわれた大会は、悪天候により最終日に1日で決勝36ホールをプレーすることになった。当時まだ未勝利だった小田は最初の18ホール、つまり第3ラウンドを終えて単独首位に立った。組み替えなしで突入した直後の最終ラウンド。「お前の初優勝を見届けてやる」。そう言って老体を引きずり、海辺のコースを一緒に回ったのが尾崎将司だった。
「その少し前に、人づてにジャンボさんが『いいショットを打つ』と褒めてくれていたと聞いてすごく嬉しかった。初優勝がかかったところで36ホール、あのアップダウンの激しいコースを完走してくれて……。本当にありがたくて、絶対に勝ってやろうと思った」
だが、小田は初優勝のシーンを尾崎の目に映せなかった。スコアを伸ばせずに順位を下げ、代わりに優勝したのはアマチュアの15歳、石川遼だった。
ラウンド後、ジャンボは言った。「高校生に負けやがって……丸刈りにしろ」。いま思えば、偉大な先輩の前で受けた最大の屈辱だったかもしれないが、それも反骨心を大いに煽った話のひとつである。
職人気質とは正反対の、真っ直ぐな激情。
彼を彩るエピソードには、まっすぐな思いがあふれている。自分のプレーがライバルのスコアに影響しないゴルフでは、同伴競技者やリーダーボード上の敵を意識することは、確かに無駄なことかもしれない。
しかし小田は、他のゴルファーがよく口にする“目の前の一打に集中するだけ”という常套句を頭では理解していても、そうはいかない人間らしさがある。賞金レースが佳境に入るとストレスで不眠になり、胃が爛れた。達観した精神状態に辿りつくことは、結局最後までできなかったのかもしれない。日々のインタビューで「他の選手は関係ない」と着飾ってみても、最後までタイトルを争った藤田寛之は「自分を意識しているのをすごく感じる。あの純粋さ、熱さはいい」と目を細めていたものである。
見かけからは想像しがたい“下戸”の36歳の本質は、「自分は自分」という高潔な職人気質とはちょっと違う。
「見返してやりたい」「あいつに負けたくない」、そんなまっすぐな負けん気を持ったまま大人になり、競技者の本能を覆い隠すことなく、日本一に上り詰めた。
来年7月、小田は賞金王のタイトルで得た資格で、再び全英オープンの舞台を踏む。
ターンベリーの少年は、あのアンダードッグがこんなにも真っ直ぐに、大きく成長した姿を知ったら、どう思うだろうか。
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