箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
王者と新興校で己を磨いた村山兄弟。
“最速”の2人が集大成の箱根へ。
text by
Number編集部Sports Graphic Number
photograph byNanae Suzuki
posted2014/12/02 10:30
全日本終了後、2人で撮影に応じる村山謙太(左)と紘太。
「やはり弟」「倒すべき選手」という相互の思い。
王者である駒大と新興勢力である城西大。異なる環境を選んだ2人だが、互いに自らの選択に後悔はないという。謙太は駒大で、勝者のメンタリティを目の当たりにした。
「練習での追い込み方や勝負へのこだわりは驚きでした。今でも覚えているのは、1年目の出雲で負けて、先輩たちが泣いていたこと。当時の自分はそういう感覚がなかったから、すごく新鮮だった。駅伝で負けるというのがこんなに大きなことなんだと」
紘太は城西大で、自分の頭で足りない部分を考える自発性を学んだという。
「自分で何が足りないかを考えてから練習する環境はすごく大事。メニューも監督と相談して、自分の考えを突き詰める。与えられたものをやるだけでは、納得できないので」
今でもよく話すという2人だが、お互いの話を聞くと微妙な差があるのが面白い。弟のことを語る謙太は、どこか嬉しそうだ。久しぶりの兄弟対決となった全日本の話をするとこんな言葉が出てくる。
「兄として負けられないプライドはあります。でも、自分にとってはやはり弟なんです。一緒に走ると『大丈夫か? 遅れないか?』と心配してしまう部分があるというか(笑)」
そんな兄の話を伝えると、紘太は少し、悔しそうな表情を見せた。
「うーん……謙太が自分を弟として見ているのは、負けたことがないからでしょうね。一度自分が勝つことができれば、考えも変わってくると思います。兄として意識する部分もありますけど、それ以上に僕は村山謙太が今の日本最強のランナーだと思っている。倒すべき選手が、偶々兄だったという感じです」
道を違えた2人が、集大成を箱根で。
ライバルとして意識しつつも弟に甘い優しい兄と、兄として尊敬しつつも超えるべき目標と捉える意気軒昂な弟。そんな2人の個性の差が、ぼんやりと見えてくる気がした。
卒業後は再び揃って名門・旭化成に入社する。最後の大舞台を控え、声を同じくしたのは、
「箱根ではこれまで力を出し切れていない。今年は結果を出すことだけを考えて走る」
ということだ。個人としてだけでなく、いずれもチームの浮沈をその肩に背負う。
兄の意地と、弟の執念――。
道を違えた2人は、最後の箱根路でそれぞれの4年間の集大成を見せる。そのぶつかり合いは、最大の見どころになるかもしれない。