サムライブルーの原材料BACK NUMBER
佐藤由紀彦、長崎の地で引退を決意。
愛弟子・岡崎慎司との“魂”の絆。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byJ.LEAGUE.PHOTOS
posted2014/11/14 10:30
V・ファーレン長崎では2010年から主将を務め、2011年にはコーチライセンスも取得している。2013年にクラブは念願のJ2に昇格し、佐藤由紀彦はその精神的支柱となっている。
2005年、佐藤と岡崎は清水の「Bチーム」だった。
いつのことだったか。
佐藤に、岡崎のことをじっくり聞いたことがある。
2005年、横浜でリーグ2連覇を果たした佐藤は出場機会を求めて古巣へ。同時期に滝川二高から岡崎がルーキーとして清水に入ってきた。
「お世辞にも、うまいとは言えなかったですね」
フォワードの序列で言えば一番後ろの岡崎に、そんな印象を抱いていた。
七色のクロスと称された佐藤の武器、そのクロスに飛び込んでいく岡崎の持ち味。経験豊富な29歳と、プロほやほやの19歳は練習でとかく絡むことが多かった。
「オカが得意とするのは、キーパーとディフェンダーの間に入ってくるボールですよね。本人もそこだけは譲れないものだと思っていて、1年目からそこを要求してくるんです。分かったよ、決めてみろと思って、そこにボールを出してオカが飛び込まなかったら怒りましたよ。『オイ、話がちげえじゃねえか』ってね」
それは佐藤がレギュラーを奪えず、必死にもがいていた時期でもあった。紅白戦の「Bチーム」、サテライトの試合で一緒になることが多かった。
「いいか、1本で人生が変わるんだ」
何度も厳しい言葉をぶつけた。何度も何度も怒った。
絶妙のクロスを送って岡崎が決められなかったとき、佐藤は激しく詰め寄ってこう言ったという。
「俺はお前に合わせること、お前は点を取ること。いいか、あの1本を決められないことで、今週俺らはメンバーに入れないんだぞ。いいか、1本で人生が変わるんだ」
当時のことを尋ねると、佐藤は苦笑いする。
「俺のクロスでオカが点を獲ってくれれば、俺の評価も上がるし、お前の評価も上がるんだってことを感情的になって言ったこともあります。まあ、言い過ぎたかなってときもありましたよ。それでもアイツが凄いのは、俺のこととかを煙たがらない。普通あれだけ言われたら敬遠してもおかしくないのに(笑)」
練習が終わると居残りで“感覚”を合わせていく。クロスを上げ、シュートを叩き込む。何度も何度も、来る日も来る日も繰り返した。