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天皇賞・秋のスピルバーグに思う、
重賞未勝利馬がなぜGIを勝つのか?
posted2014/11/04 11:10
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph by
Yuji Takahashi
第150回天皇賞・秋(11月2日、東京芝2000m、GI)のパドックで、1頭だけちょっと変わった歩き方をする馬がいた。ほかの3本の脚の運びは普通なのに、右の前脚だけは、伸ばし気味にしたまま高く上げ、少し振り回すようにして踏み出すのだ。まるで地面にいる虫を蹄のU字部分でつかまえようとしているかのような動きだった。
あまりやる気がないのか、それともふざけているのか……。いずれにしても、集中しているようには見えなかったその馬が、150代目の天皇賞馬となったスピルバーグ(牡5歳、父ディープインパクト、美浦・藤沢和雄厩舎)であった――。
10万人を超える大観衆に見守られ、6頭のGIホースを含む18頭がゲートを飛び出した。
スローな流れの中、後方につけたスピルバーグが……。
カレンブラックヒルがハナを切り、前半1000m通過は60秒7というスローな流れ。そんななか、北村宏司が手綱をとるスピルバーグは、後方の13、4番手につけた。
「(スタートは)あのぐらいのダッシュ力なので、いつもどおりの位置取りでした。道中は冷静に走ってくれました」
そう話す北村は、4番枠という内枠を生かし、コースロスのない内ラチ沿いで騎乗馬の脚を溜めた。そして、3コーナーを回りながら馬群の外に持ち出し、ラストスパートに備えた。
「前走は脚を余して負けた(毎日王冠3着)ので、力を出し切るための進路取りをしようと思い、外に出しました」
直線に向いたとき、先頭から10馬身以上離されていたが、北村には、目の前にいたフェノーメノが動くまで追い出しを待つ余裕があった。
「直線の坂下で追い出すと、重心をグッと沈めました」
スピルバーグは大外から凄まじい脚で伸び、先に抜け出した1番人気の3歳馬イスラボニータ、その内の女傑ジェンティルドンナらをまとめてかわし、1分59秒7のタイムで勝利をおさめた。