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山中慎介にもっとビッグマッチを!
7度目防衛の先に見えてきた統一戦。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byAFLO
posted2014/10/23 11:30
現在日本人の世界チャンピオンは6人。4つの団体×17の階級がある現在は、どうしても世界王者の価値が下がりがちだ。山中慎介はさらなるステップアップを求めて、ビッグマッチを実現することができるか。
「4ラウンドには、相手のタイミングもつかめていた」
正直なところ大きなリードは許してないとはいえ、かなり悪い展開だったことは確かだ。それでも山中は冷静さを失うことは決してなかった。
「1ラウンドに右をちょこちょこもらったので、まずはそれを外そうと。4ラウンドの公開採点を聞いたころには相手のタイミングもつかめていたし、ここからだなと思った」
左の強打が炸裂したのは7回。挑戦者の右を外しざまに左強打を炸裂させた。続く8回には右アッパーから左ストレートのコンビネーション、9回にもボディアッパーで3度目のダウンを奪い、終わってみれば明白な判定勝ち。
連続KO記録はストップし、課題も見えたが「右の使い方もうまくなっているし、今までの経験もよくいきていた。(山中にとってやりにくい相手に勝ち)今日でひと皮むけてさらにいいチャンピオンになる」とは帝拳ジムの本田明彦会長。少なくとも「合格点」というのが、この日の試合ではなかっただろうか。
「防衛回数ではなくビッグマッチ」という流行。
さて、気になるのは指名戦をクリアした山中の今後だ。
具志堅の打ちたてたV13という金字塔を目指すのか。減量の心配がない山中であればそれも十分に可能のようにも思えるが、山中は「バンタム級最強を証明するために統一戦をやりたい」と言い切る。本田会長の意見も同じだ。
「防衛回数は狙っていない。大きな試合をやらせたい」
防衛回数ではなくビッグマッチ、統一戦─―。最近は多くのボクサーがそう口にするようになった。
2005年にWBC世界バンタム級タイトルを奪取し、足かけ5年で10度の防衛を成功させた長谷川穂積(真正)のときでさえ、途中まで統一戦という声は決して大きくなかったと思う(長谷川は11度目の防衛戦でWBO王者と事実上の統一戦をして敗れた)。それがここ数年でガラリと様相が変わった。
その背景にはいくつか理由があるが、昨年4月、日本ボクシング界が従来のWBAとWBCに加え、IBFとWBOという統括団体を認めた事実は大きい。
世界タイトルマッチや世界王者が増えた結果、もはや通常のタイトルマッチはビッグマッチではなく、ただの世界王者では本当の世界一とは言えないと、多くのファンが肌で感じるようになっている。
ボクサーの感覚も同じだ。山中は一時ビッグマッチを求めて、アメリカで名前の売れている1階級上の世界王者レオ・サンタクルス(米)の名前を口にしていたが、残念ながらこれは実現しなかった。そして今回、ついに7度目の防衛を成功させ、ファンがわくわくするような挑戦者(たとえば八重樫東が迎えたローマン・ゴンサレスのような)も見つからないのであれば、多少無理をしてでも、新たなステージに踏み出すというのは当然の流れではないだろうか。