野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
巣鴨のとある弁当屋の“ヤクルト魂”。
「仕事中に試合を見るために……」
posted2014/10/06 10:40
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph by
Hidenobu Murase
今シーズンのセ・リーグペナントレースは読売巨人軍が優勝を飾りました。ファンの皆様、おめでとうございます。
これは今から約1カ月ほど前、優勝やらCSの行方やらがなんとなく決まる前の話――。まだ広島や阪神が優勝を目指していて、DeNAが初めて現実的に聞く「クリンチナンバー」という言葉の響きに慄き、これ、やっぱり、CSに行けるんじゃないかと本気で思っていて、中日もなんだかんだで、やっぱり最後には3位に入ってくるんじゃないか、と思われていたあの頃。
まだまだペナントレースの熱気は冷めず、グラウンドから一瞬たりとも目が離せない。そんな秋の日の東京・巣鴨。
今日もトゲだらけの高齢者がそぞろ歩く地蔵通り商店街は、プロ野球の熱気なぞどこ吹く風で、カープ女子とかまったく関係なく赤いパンツが売れまくる。そんな町に筆者は住んでいて、毎日地蔵通りの西のはずれにある都営荒川線・庚申塚駅のあたりを自転車で通るのが慣例である。
ヤクルト全試合生放送の「弁当屋」。
その日の夕方も、ナイター中継に間に合わせるべく荒川線の踏切の音がカンカンと鳴り響く庚申塚の商店街を、必死に自転車をこいで家路を急いでいると、ふと、視界の片隅に違和感を感じた。
自転車を止めて、振り返ると、そこには夕日に照らされた弁当屋があった。一見、何の変哲もないカウンターだけの持ち帰り専門のいわゆるホカ弁屋。その壁にこんな貼り紙がある。
“東京ヤクルトスワローズ全144試合 出来る限り生放送中”
違和感の正体はこれだった。
……どういうことだろうか。いや、飲食店が野球中継を流すこと自体は別におかしなことではない。太古の昔から汚い中華料理屋で流すテレビは野球中継と相場が決まっているし、世間的にもスポーツ居酒屋の類などは続々と増えている。
だが、そもそもここは弁当屋だ。待合室もイスもない小さな弁当屋。カウンターの上に中型のテレビが申し訳なさそうに置いてあるだけで、その横には、つば九郎と地蔵通り商店街のマスコット“すがもん”が巣鴨とスワローズの友好の証といいたげに仲良く並んでいる。