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アルトゥーベとイチロー。
~“165cmの大打者”が200本安打~
posted2014/09/19 10:30
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph by
Getty Images
2014年9月10日、アストロズのホゼ・アルトゥーベ(24歳、ベネズエラ出身)が年間200本安打を突破した。両リーグを通じて一番乗り。ずっとハイペースだったから突破は時間の問題だと思っていたが、よくよく考えてみると、これはかなり歴史的な出来事だ。
9月12日現在、アルトゥーベは、打率、安打数、盗塁数の3部門でア・リーグのトップに立っている。具体的な数字を並べると、143試合に出場して、599打数、202安打、打率3割3分7厘、盗塁数52、三振数49、長打の本数が50。もしいまの状態をキープしてシーズンを終えることができたら、2001年のイチロー(242安打、3割5分、盗塁数56)以来、久々に、この分野での「3冠」が達成されることになる。
もうひとつ、話題になっていることがある。いや、こちらのほうが俗耳に入りやすいかもしれない。それは……。
アルトゥーベの身長が165cmしかないことだ。公称は168センチだが、アメリカのメディアは口をそろえて「5フィート5インチの大打者」と連呼している。1フィート=30.5cm、1インチ=2.54cmで換算すると、たしかに165cmになる。いつぞやのテレビなどは、本塁打の飛距離を推測する際に「いまのは何アルトゥーベ(アルトゥーベ何人分)飛んだだろうか」などと失礼なことをいっていた。
170cm以下で殿堂入りした選手は6人。
大リーグ史上、5フィート7インチ(170cm)以下の身長で殿堂入りした選手は6人しかいない。ビリー・ハミルトン、ウィリー・キーラー、ラビット・マランヴィル、ジョー・スーウェル、ハック・ウィルソン、フィル・リズトーの6人だ。
このうち内野手は、マランヴィル、スーウェル、リズトーの3人だ。サイズでいうと、マランヴィルやリズトーがアルトゥーベに近いが、このふたりは「守備の人」で、打率は大体2割5分前後だった。なかでは比較的地味なスーウェルが、14年間通算で2200本を超えるヒットを打った。200本安打は1度達成しただけだが、24歳の年に早くも195安打を記録している。
ただしいま挙げた6人は、全員が1941年以前のデビューだ。イチローがさまざまな安打記録を更新していたさなかは、ポール・ウェイナーやジョージ・シスラーやウィリー・キーラーの名前が取り沙汰されたが、アルトゥーベも過去の名手を呼び出す降霊術師の役割を果たしているようだ。