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知られざる欧州組・瀬戸貴幸がELへ。
2億円を蹴った男のルーマニアでの夢。 

text by

朴鐘泰

朴鐘泰Park Jong Tae

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photograph byGetty Images

posted2014/09/18 10:50

知られざる欧州組・瀬戸貴幸がELへ。2億円を蹴った男のルーマニアでの夢。<Number Web> photograph by Getty Images

昨シーズンは2億円のオファーを蹴ったことで「干された」という瀬戸貴幸。今季は、クラブにとっても本人にとっても、勝負の年となる。

夢を叶えるために、2億円の移籍話に「NO」。

 昨季瀬戸が不遇をかこつことになる決定的な事件があった。昨年8月、カタールSCから獲得のオファーが届いた。当時の監督セバスティアン・ラザロニ直々のリクエストで、移籍金120万ユーロ、年俸は円換算すると3年間で合計2億円というものだった。

 クラブは“売り時”と判断して、放出に前向きだった。しかし、瀬戸の答えは「NO」。オーナーのヨアン・ニクラエがわざわざ直接電話で説得しても、その意思は揺るがなかった。

「お前の人生で、これほどの大金を手にすることは二度とないだろう。家族のためにも、移籍したほうが得策だ」

「僕の夢はELに出て、チャンピオンズリーグ(CL)にも出て、日本代表になることです。カタールに行けばその夢から遠ざかってしまう。だから、すみませんが移籍しません」

「本当に移籍しないのか?」

「しません」

「……わかった」

 ニクラエの最後の言葉からは、電話越しでも“しぶしぶ”感がいっぱいに伝わってきたという。彼はルーマニア2位の資産家で、気に入らない監督はもちろん、選手にさえ“即刻クビ”を言い渡す超ワンマンオーナーとして知られる。その意向に背いたのだ。ニクラエの最後の言葉が、「じゃあクビだ」とならなかったのは、8年というクラブ最長在籍の瀬戸の貢献を認めてのことだろう。

 それにしても、だ。目の前に2億の金を積まれても、瀬戸はさらっと笑い飛ばす。

「お金は生活できるくらいの額があれば、それで十分なんですよ、ははは」

強化策が功を奏し、チームは勢いづくが……。

 一昨季がリーグ戦4位&カップ戦ベスト4、そして昨季リーグ戦2位&カップ戦優勝と、近年アストラが右肩上がりに成績を上げているのは、オーナーの直下に会長職が設けられ、その職に就いたディヌ・ゲオルゲが一貫した強化策を施しているのが大きい(ワンマンオーナーによる発作的解任人事も減った)。

 特にゲオルゲは移籍金ゼロで“お買い得”な選手を見つける目に長けている。システムは4-2-3-1を軸に、全員攻撃・全員守備を標榜し、カウンターの切れ味はルーマニア随一だ。

 そのゲオルゲ体制も3年目を迎え、今季は“勝負の年”。オーナーの鼻息も荒い。今季初戦、ルーマニア・スーパーカップではCL常連のステアウア・ブカレストにPK戦の末、勝利。EL予備予選も突破し、リーグ戦でも5勝1敗で首位に立つなど、順調なスタートを見せていた。

【次ページ】 給料遅配による練習ボイコットも「当たり前」。

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