欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
知られざる欧州組・瀬戸貴幸がELへ。
2億円を蹴った男のルーマニアでの夢。
posted2014/09/18 10:50
text by
朴鐘泰Park Jong Tae
photograph by
Getty Images
ルーマニアのアストラ・ジュルジュがクラブ史上初となるヨーロッパリーグ(EL)出場を決めたピッチに、瀬戸貴幸は立っていた。
プレーオフでフランスの強豪リヨンを下しての本戦出場は番狂わせとも言える。試合終了の笛が鳴ると、アストラの選手たちが、思い思いに喜びを爆発させる。ひとりの選手が瀬戸に近づき、小突きながらこう言った。
「おいタカ、お前なんで喜ばないの? 嬉しくないのか?」
その時、スタジアムのオーロラビジョンには歓喜に沸くチームメートを尻目に、笑顔はおろか、むくれているようにも見える瀬戸の表情が映し出されていた。
「嬉しくなかったわけじゃないんですよ。僕、感情を表現するのが苦手なんで(苦笑)。でも、リヨン戦のファーストレグは前半で代えられたし、あのセカンドレグの出場は最後の5分だけでしたから。90分間試合に出てないから、達成感は全くなかった。昨シーズンも全然試合に出れなくて、自分的には納得いかなかったし」
Jクラブからは袖にされ、ルーマニアでプロに。
今年28歳の瀬戸は欧州でプレーする日本人選手の中でも、そのキャリアは異色ぶりが際立っている。名古屋の熱田高校を卒業後アルバイトでお金を貯め、ブラジルへのサッカー留学で本場のレベルの高さを痛感し、帰国後は地元リーグまたはフットサルのクラブでプレーした。
Jクラブの入団テストで落ちながらも「プロになる」という夢を抱き続け、アストラのテストを受けるためにルーマニアへ渡ったのが2007年。以来8シーズン在籍し、その間ゲームキャプテンとして過ごした時期もあり(しかし瀬戸本人は「もうやりたくない」と言っている)、アストラの主軸としての地位を自らの力で築き上げた。
昨季成績は24試合2得点。パッと見は“そこそこ”出ていたように見えるがリーグ戦のほとんどが途中出場で、カップ戦にはコンスタントに起用されながらも、肝心の決勝はベンチに座ったままだった。せいぜいボランチの3、4番手の扱い。
しかしチームはリーグ戦で過去最高の2位、カップ戦に至っては初優勝を果たすとともに国内タイトルを初めて獲得した。瀬戸はベンチでカップ戦優勝の瞬間を迎えても、「こみあげてくるものはなかった」という。