野ボール横丁BACK NUMBER
今夏の甲子園に漂う「荒れる」予感。
逆転、スタンドの空気、そして東海!?
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byKyodo News
posted2014/08/13 10:30
エース森田駿哉をバックも好守でもり立て、10年ぶりの勝利を手にした富山商のメンバーたち。
スタンドの空気を味方に、番狂わせを起こした富山商。
さらに高校野球は、スタンドの「空気」をいかに自チームに引き寄せるかが重要になる。
大会初日、甲子園初采配ながら、そのことを熟知していたのは富山商業の監督、前崎秀和だった。
相手は、ここ10年で二度全国を制している西東京を勝ち抜いた日大鶴ヶ丘である。全国優勝未経験の北陸地域の代表校との格の差は否めなかった。
そこで前崎は前夜、選手たちにこんな話をした。
「スタンドの7割方は、日大鶴ヶ丘が勝つと思っている。でも、7割が日大鶴ヶ丘の応援をするわけではない。甲子園のファンは平等だから。おまえらが先制し、やるな、というところを見せたら、おまえらの方を応援してくれるようになる。だから、何が何でも先制点を取るんだ」
この言葉を信じた富山商の戦いは、じつに落ち着いていた。そして5回表に1点を先制し主導権を握ると、6回表に2点目を挙げ、完全にリズムをつかんだ。そのままエースの森田駿哉が完封勝利を挙げ、10年振りの甲子園白星を飾った。
さほど大きく報道されたわけではないが、この試合も、龍谷大平安対春日部共栄に続く番狂わせだった。ここにも、ひとつの流れができている。
東海大系列が4校出場という「東海」の勢い。
この夏の流れ、空気をいかに読み、味方につけることができるか。それができれば、力以上のものは出ないまでも、持っている力をすべて出し切れるようになる。そこが、何が起こるかわからない甲子園の魅力だ。
流れという意味では、「東海」も見逃せない。
5月末、三池工業や東海大相模を全国優勝に導いた名監督で、東海大系列校野球部総監督だった原貢が亡くなった。その約2週間後、喪章をつけて戦った東海大が13年ぶりに大学選手権を制している。
その勢いをかってか、この夏、東海大系列は、東海大相模、東海大甲府、東海大望洋、東海大四と、史上最多となる4校が出場している。この中から優勝校が出て、大会後、「今年はやっぱり東海の年だった」と言われているような気がしないでもない。