ブラジルW杯通信BACK NUMBER
怪物ではなく「当たり前」の徹底!
ドイツの優勝を、日本のモデルに。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byGetty Images
posted2014/07/15 12:10
ドイツの選手たちが徹底したハイレベルな「当たり前」のプレーの連続が、強烈な「個」を擁するアルゼンチンを凌駕した。その姿は、日本にとってもお手本になるのではないだろうか。
「当たり前」のレベルがきわめて高いドイツ。
決勝戦のパフォーマンスは、必ずしもトップレベルではなかっただろう。やってはいけないミスから、アルゼンチンに決定機を差し出す場面もあった。
だが、6月16日のグループリーグ初戦から28日間で7試合目である。心身ともに擦り切れてもおかしくない状態だ。そのなかで、120分に及ぶゲームを無失点で乗り切ったのだ。メッシの脅威をはねのけたタフネスぶりは、ドイツの優勝を際立たせると思う(3度目の延長を戦ったアルゼンチンも、恐ろしくタフなチームだった)。
ブラジルW杯のドイツは、彼らにしかできないプレーの力で頂点へ駆け上がったわけではない。いつ、どこで、どのようなプレーをするべきかを適切に判断し、局面が求めるプレーを速く正確に、オフザボールとオンザボールに関係なくピッチ上で表現するサッカーだった。装飾を取り除いた機能美、とでもいえばいいだろうか。もっと簡単に言えば、「当たり前にやるべきプレー」のレベルがきわめて高いチームなのだ。
スカウティングが生んだブラジルへの大勝。
スカウティングも緻密である。象徴的なのは準決勝のブラジル戦だろう。
ブラジルはボランチの展開力に難があり、ネイマールというボールのあずけどころを失ったことで、ボールを保持した局面でためらいが生じた。その中盤でのちょっとした逡巡をドイツは見逃さず、大量得点へとつなげていった。ネイマールを失ったことに始まるブラジルの悲劇は、ドイツの計算されたゲームプランによって惨劇へと変わったのである。
リスタートへの目配せも利いている。
大会最多の18ゴールのうち、ドイツはCKから3点、ショートコーナーとFKから1点ずつを記録しつつ、対戦相手にはCKとFKから得点を許していない。攻撃のリスタートが武器に、守備のリスタートが弱点になるかどうかは、分析と対策に委ねられる部分が大きい。勝敗を隔てる細部にまで神経を行き届かせるドイツの姿勢は、どのチームも見習うべきもののはずだ。
日本がすぐにドイツに追いつけるなどとは、もちろん思っていない。いまはまだ、彼らの背中さえ視界にとらえられない。
それでも、目標にはできる。自分たちのサッカーを確立する前に、我々は「当たり前のレベル」をあげていく必要がある。