セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
指導者となった“2人のインザーギ”。
セリエAで兄弟対決が見られる日は?
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2014/05/27 16:30
UEFAユースリーグでチームの指揮を取るフィリッポ・インザーギ。彼のDFラインの裏を取る能力はアレックス・ファーガソンから「オフサイドポジションで生まれた男」と評された。
恋の悩みでも、勉強の相談でも、何でも聞いた。
シモーネは兄より2年早く、2010年に現役生活へ別れを告げた。
ラツィオのような大所帯の育成組織では、同じ年代でもレベル差によってチームが分けられる。シモーネが最初に受け持ったのは、U-16の全国リーグに参戦するチームより一段レベルの落ちる州リーグチームだった。
「自分にも近い年齢の息子がいるからわかるが、少年たちと信頼関係を築くには、グラウンドの外で彼らの話を何でも親身に聞いてやることが大事だった。恋の悩みでも、勉強の相談でも、何でもだ」
「ちょうど指導を始めたばかりの頃、チームの一人が不幸な交通事故で亡くなってね。突然の仲間の死に選手たちは精神的ショックを受けて、試合どころじゃなかった。そのときの自分は、彼らの監督というより、心理カウンセラーそのものだった」
トップチームへ主力を送り出し、タイトルも獲得。
地道な仕事ぶりを評価されたシモーネは、'11年からU-16の全国リーグチームをまかされるようになり、今年1月にはプリマベーラ監督へ昇格。3カ月後、クラブにとって35年ぶりとなるプリマベーラ・コッパ・イタリアのタイトルを勝ち取り、ロティート会長の期待に見事応えてみせた。
プリマベーラの選手が、トップチームへいつ招集されてもスムーズに馴染めるよう、シモーネ監督は普段から練習メニューをトップチームのそれと似通ったものにするよう注意を払っている。昨季トップチームへ送り出された19歳のFWケイタは、早速セリエAデビューを果たすと、通算35試合に出場し6得点。瞬く間にラツィオの主力へと成長した。
シモーネは「個人的に好きなのは4-3-3だが、布陣より大事なのは監督が選手へ伝える中身だ」と語る。
彼が目標とするのは、現役時代に薫陶を受けたマンチーニ(ガラタサライ)やエリクソン(広州富力)といった個性派指導者たちだ。とりわけ、今季は元チームメイトであるシメオネ(A・マドリー)がリーガ・エスパニョーラを制したことも、大きな刺激になった。
「先にセリエA監督になるのはピッポの方さ」と謙遜する弟にとって、ラツィオのトップチームを指揮する日は存外に近づいているのかもしれない。