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負傷のリスクより誠実さを貫いて――。
長谷部誠、最終節で強行出場の裏側。
posted2014/05/14 10:40
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph by
Picture Alliance/AFLO
泥の上でもがいているかのようだった。パスは相手に奪われ、劣勢のチームに苦しい判定が続き、審判に必死で抗議をする。何かを変えないといけない。
長谷部誠にとって、昨年の12月21日以来140日ぶりとなる公式戦の舞台は苦しみの中での戦いだった。その姿からは、ピッチを離れたときの端正でスマートな素振りは、想像できない。
しかし長谷部の健闘もむなしく、ニュルンベルクは敵地のシャルケ戦に1-4で敗れ、ブンデスリーガ史上最多となる8回目の2部降格を余儀なくされた。
試合が終わり、相手チームの選手と握手をしてお互いの健闘をたたえた長谷部は、右足のスパイクのひもだけを一気にほどいた。
まるで、負傷明けの右足にかかった負担を解放するかのように。
リスクと隣り合わせの、90分間の戦いが終わった。
今年に入ってから右ひざの手術を2度も受けた長谷部が、シーズン最終戦でプレー出来るとは……。大方の予想をくつがえす、強行出場だった。
長谷部自身、入れ替え戦での復帰が現実的と捉えていた。
4月30日、長谷部がチームの練習に合流してから2日目――。
ニュルンベルクの練習場で彼が言及したのは、最終節のあとにプレーオフとして5月15日と18日に行なわれるブンデスリーガの1部と2部の入れ替え戦だった(もちろん、そのためには自動的に2部降格となる17位にいたチームが、2部のチームとの入れ替え戦に挑める16位へ上がるように祈るしかないわけだが)。
最短でも5月15日の試合での復帰が現実的だと長谷部は捉えていた。ただ、無理をするつもりはない。それが長谷部の心のうちだった。
「入れ替え戦は頭にあるし、そこでプレーできればいいとは思うけど、そこに合わせるという意味ではない。復帰する目標を決めちゃうと焦ってしまうので」
焦りは、怪我の再発を生む危険性がある。
それだけは避けなければならなかった。シーズン後にW杯を控えているのはもちろん、、1月の手術からリハビリを続けて、今年の2月末に復帰に向けて動いていた時期に患部を再び痛め、2月28日に再手術を余儀なくされた苦い経験もあった。
当時のことを長谷部はこう振り返る。