セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
不倫騒動、そして“遺恨試合”――。
セリエAを騒がせた三角関係の行方。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2014/04/16 10:30
イカルディ(左)とマキシ・ロペスの遺恨対決は、2ゴールを決めたイカルディに軍配。
サッカーは人生と同じで、いつも勧善懲悪とはいかない。
「本来、チームのPKキッカーは俺さ。後で監督からも怒られた」
試合後、MFエデルはチームを苦境に追いやった退場を猛省していたが、PKを譲ったことについては後悔していなかった。
「マキシから蹴らせてくれって頼まれた。あそこは彼が蹴るのが正しいと思った。彼自身のためにも、ゴールが決まらなかったことが本当に残念だ」
2ゴールを挙げたイカルディは「他の2人の得点も勝利には必要だった。いい試合だった」と満足げにジェノバを後にした。
ワンダは6月の結婚式に向けて、招待状を送り始めている。招待客のうち、マキシとも交友関係にある選手は出席の是非に頭を悩ませるだろう。またひと悶着あるにちがいないと、人びとはなお好奇の目をツイート中毒の2人に注ぐのだ。
無得点に終わったマキシは沈黙へと戻った。サッカー選手としての果し合いの結果は、明確だった。
せめて一矢報いていれば、話は随分ちがったものになっていたかもしれない。けれど、サッカーはたぶん人生と同じで、いつも勧善懲悪とはいかない。フェラーリスには嫌な後味の悪さが残った。
3人の子供たちが、どこかで戦いぶりをみている。
マキシは、試合の後、いつもと同じように、長男バレンティーノへ電話をかけたのだろうか。5歳の彼は、父親へ無邪気に聞いたのだろうか。
「パパ、今日は勝ったの? ゴールは決めた? 負けたのなら、どうして負けたの?」
今日、パパはPKを失敗しちゃったよ。チームも負けた。イカルディってやつに2点も決められてさ。でも、次の試合でまた頑張るよ。今日もパパのこと、応援してくれてありがとうな。
マキシの台詞は想像だ。だがインテル戦後の彼は、子供たちへ素直に話をしたのではないかと思う。
マキシは、PKを失敗しても、チームが劣勢でも、最も唾棄すべき男から挑発されても、決して下を向かなかった。3人の子供たちが、きっとどこかで自分の戦いぶりを見ていると知っていた。
イカルディが未だ持たない、父親としての矜持。マキシにとって、それはきっと遺恨やSNSより、ずっとずっと大事なものなのだ。