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マドリーに20歳の新たなエース現る。
ヘセは第2のラウールになれるのか。 

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工藤拓

工藤拓Taku Kudo

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photograph byREUTERS/AFLO

posted2014/02/25 10:40

マドリーに20歳の新たなエース現る。ヘセは第2のラウールになれるのか。<Number Web> photograph by REUTERS/AFLO

ヘセはカナリア諸島の出身。スペインの年代別代表にも選出されており、2012年のU-19欧州選手権では大会得点王に輝き、チームの優勝にも貢献した。

ポジション争いの相手は、ロナウドとベイル。

 才能は折り紙付きで、メンタルも強い。トップチーム初ゴールをカンプノウでのクラシコで決めるなど、大舞台での勝負強さも光る。男前なルックスも含めてスターの資質は揃っているだけに、周囲がラウール以来となる自家製エースの誕生を期待するのも理解できる。

 しかし、ヘセが第2のラウールとなる上で乗り越えなければならない壁は高い。

 まず現行の4-3-3における彼のベストポジション、左ウイングには不動のエース、ロナウドがいる。ならばと右サイドに目を移すと、そこにはベイルがいる。

 これまでヘセは両者のケガや出場停止によって得たチャンスをうまく生かしてきたが、2人が揃った後も先発を維持できるかと言えば難しいだろう。最近のプレーを見る限り、ロナウドはともかく実力でベイルをベンチに座らせることは十分に可能だと思われるのだが、そう簡単にはいかないのがこのクラブの難しいところである。

ベイルをベンチに座らせることは会長が許さない。

 レアル・マドリーはただ勝つのではなく、世界最高のスター選手を揃えて勝たなければならない。

 そんな崇高な理念を抱いているフロレンティーノ・ペレス会長は昨夏、バルサのネイマール獲得に対抗すべく、批判を承知でエジルを売却し、1億ユーロ以上の移籍金を払ってまでベイル獲得を強行した。そこまでして買ってきた選手がベンチを温め続けるようであれば、ペレスのスターシステムが再び批判の対象となることは目に見えている。

 そして「世界一空気を読める監督」アンチェロッティがそのことを理解していないはずがない。そうでなければ、シーズン序盤から絶好調だったディマリアをベンチに座らせ、合流が遅れたため全く体が作れていないベイルの起用を優先し続けた説明がつかない。

 先日の会見で「ベイルorヘセ」と問われた際には「私は管理者ではなく監督。プレー以外の要素は考慮しない」と笑っていたが、はたしてカシージャス外しの反響の大きさに驚き、CLとコパデルレイの起用でバランスをとった「エル・パシフィカドール(平和をもたらす者)」に、会長の顔に泥を塗るような決断が下せるかどうか。

 つまりヘセが成功するためには、会長の理念をも覆してしまうほど、はっきりとベイルを上回るパフォーマンスを見せ続ける必要がある。しかも、限られたプレー時間の中で。それはいくら才能が豊かで勝負強い選手であっても簡単なことではない。

【次ページ】 カンテラの最高傑作は、スターシステムに勝てるか。

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