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欧州勢にも、ルール変更にも負けず。
渡部暁斗が開く複合「新興国」の道。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2014/02/21 12:00
かつてジャンプで獲得したリードをクロスカントリーで守るのが日本のスタイルだったが、渡部暁斗はクロスカントリーを武器にして、個人NHで銀メダルを獲得した。
1992年のアルベールビル、1994年のリレハンメルのふたつのオリンピックで、ノルディック団体が金メダルを取ったことを記憶している世代にとっては、今大会で渡部暁斗の活躍が見られたのはうれしかった。
ノーマルヒル個人で銀、ラージヒル個人では6位入賞。そしてラージヒル団体で5位入賞を果たした。
今大会、テレビで解説も務めた荻原健司氏の言葉を借りれば、「ジャンプからクロスカントリー重視へのルール変更のなか、それに見事に対応した渡部の功績は大きい」ということになる。
今後、日本がどんな形でノルディック複合の強化を進めるのか見ていきたいと思う。
個人NH金メダリストは5カ国からしか生まれていない。
ただし、テレビのアナウンサーがノルディック複合のことを「お家芸」と呼ぶことには、違和感があった。この競技の歴史を振り返ってみると、まだまだ日本の歴史は浅いからだ。
ノルディック複合は、冬季オリンピックの第1回、1924年のフランス・シャモニー大会から行なわれている由緒ある競技だ。それだけヨーロッパの人たちにとっては、プライドと思い入れのある競技なのだ。
第1回大会以来の、ノーマルヒル個人の国別の金メダリストののべ数を見てみて、驚いた。
ノルウェー 10人
ドイツ 7人
フィンランド 2人
フランス 2人
スイス 1人
冬季オリンピック90年の歴史の中で、わずか5カ国からしか金メダリストが誕生していない。
なるほど、リレハンメル大会で河野孝典が銀を獲得したが、荻原がメダルに手が届かなかったこともヨーロッパ勢の分厚い壁に阻まれていたことが分かる。