濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
アクシデントも、熱い試合も続出。
拡大を続ける、女子MMAシーン。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTakeshi Maruyama
posted2014/02/22 08:15
魅津希と果敢に打ち合う富松恵美(右)。激しい打撃戦の末、魅津希が腕ひしぎ十字固めでフィニッシュしたが、体重オーバーのため反則負け。極められた富松が暫定王者に。
2月16日、新宿FACEでの女子MMAイベント『DEEP JEWELS』を終えた佐伯繁・DEEP代表の第一声は「あぁ~疲れた。明日は寝込むかも……」だった。
これほどアクシデントだらけの大会も珍しかった。まずは引退エキシビションマッチを行なう予定だった主力選手の一人、長野美香が、大会2週間前になって妊娠により試合をキャンセル。主催者側は急きょ、チケットの払い戻しを実施することになった。
エキシビションで長野と対戦予定だったのは、彼女のライバルで現在はリングから離れている石岡沙織。試合はなくなっても引退式で花束を渡し、リング上で復帰宣言をする予定だったという。しかし、前日の大雪のため地元の長野から移動できず、メッセージが代読されるのみとなってしまった。
大会の目玉がふたつも飛んでしまったが……。
大雪は大会前日の計量にも影響した。何人もの選手が規定時間に会場に到着できなかったのだ。さらに、メインイベントでライト級(52kg)王座決定トーナメント決勝戦を闘う魅津希が、再計量でもリミットをクリアできず、闘わずして相手の富松恵美が暫定王者としてチャンピオンベルトを巻くことになった。試合はタイトルと関係のないワンマッチとして行なわれることになったが、魅津希が勝っても公式記録には残さず、反則負け扱いとなる特別ルールに変更。
人気選手の引退マッチとメインのタイトル戦。二つの目玉が“飛んだ”のだから、観客は著しく興を削がれたことになる。プロモーターのダメージも、それこそ寝込みそうになるほどだっただろう。
それでも、佐伯代表は気を取り直してこう言った。
「まあでも、前を向いてやっていかなきゃいけないですからね」
プロモーターを右往左往させるのが選手なら、自信を与えるのも選手だ。この日、行なわれた試合は充分に見応えがあった。前半3試合が一本による決着になったのは、新人・中堅のレベルアップを意味する。前フェザー級(48kg)王者・スギロックと対戦したデビュー6戦目のSARAMIは、スプリット・デシジョンで敗れたもののダウンを奪い合う凄まじい打撃戦を演じてみせた。