濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
アクシデントも、熱い試合も続出。
拡大を続ける、女子MMAシーン。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTakeshi Maruyama
posted2014/02/22 08:15
魅津希と果敢に打ち合う富松恵美(右)。激しい打撃戦の末、魅津希が腕ひしぎ十字固めでフィニッシュしたが、体重オーバーのため反則負け。極められた富松が暫定王者に。
内容だけを見れば、素晴らしかったメインイベント。
メインイベントも、内容だけを見れば素晴らしいものだった。試合前は塞ぎ込んでいたという魅津希だが、ゴングが鳴ると吹っ切れたようなラッシュを見せる。そのコンビネーションは、他の選手より頭一つ以上抜けていた。最終3ラウンド、腕ひしぎ十字固めで強引にフィニッシュした瞬間の表情は“鬼気迫る”という言葉がふさわしいものだった。
そんな魅津希を相手に、富松も真っ向勝負を展開。最後の最後まで、おそらくは限界以上の能力を発揮して食い下がる。その姿は、トーナメント開始前に「出られるとは思わなかった」、「私は大穴なので」と言っていた選手には見えなかった。トーナメントを通じて、彼女は明らかに強くなったのだ。
魅津希が関節技を極め、しかし記録は反則負け。そもそも計量オーバーなのだから、試合の前提が成立していない。それでも富松vs.魅津希は、“なんの意味もなかった”と切り捨てるには惜しい闘いだった。
日本レスリング協会の福田会長が訪れた意味。
また、この日はレスリング協会の福田富昭会長も観戦に訪れていた。レスリング出身である長野の引退もあり、「参考のために」会場を訪れたのだという。大会後、取材陣に囲まれた福田会長はこんなコメントを残した。
「レスリングからの選手は(長野)美香の引退で一人減りましたけど、これから日本でチャンピオンになり、外国でも勝てる選手を出したいですね。代表クラスはオリンピックがあるけど、それに次ぐ選手なら。そうしてこの世界に活気を出したいな、と」
具体的な話はまだまだこれから。しかし女子レスリング界がMMAに積極的に関わることになれば、勢力図が一変する可能性もある。
現在、アメリカでは女子MMAが大ブレイク。UFC女子バンタム級(61.2kg)王者のロンダ・ラウジーは映画出演も果たすなど男子選手以上の人気を誇っている。今年は52.2kgのストロー級王座も新設されることになった(魅津希にもオファーが届いているという)。ラウジーは北京五輪の柔道銅メダリスト。オリンピック・アスリートの第2の目標になるほど、女子MMAは夢を見ることができる、そして稼げるジャンルになりつつあるということだ。
「レスリングとの関わりで、新しい歴史が始まる気がします。強化選手のフィジカルは半端じゃないですからね。ロンダの牙城を崩す選手が出てくるかもしれない。話題性があるし、メディアも動いてくるはず」
そう語った佐伯代表。「今年の大晦日は女子の大会をやってるかも」と笑う姿を見ると、どうやら寝込まずに済みそうだな、と思えた。