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本田圭佑に是非とも移籍して欲しい!!
今リバプールが欧州で大注目の理由。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byGetty Images
posted2011/01/07 10:30
降り積もる雪の中、ロシアリーグのCSKAモスクワで戦い続ける本田。スルツキ監督との不和は相変わらずと伝えられるが……
コモリが導入を試みる『マネー・ボール』の理論とは?
昨年10月、泥沼の法廷闘争の末にリバプールのオーナーが交代したことは、以前に本コラムで触れたとおりだ。新オーナーとなったNESV(ニュー・イングランド・スポーツ・ベンチャーズ)のジョン・ヘンリー会長は、買収成立から2週間ほど経った11月初頭、最初の大きな動きを見せている。それがまだ38歳のフランス人スカウト、ダミアン・コモリのスポーツ・ディレクターへの抜擢だった。
ヘンリーはなぜコモリに白羽の矢を立てたのか。ここで浮上するキーワードが『マネー・ボール』である。
もともとコモリはアーセナルでは欧州担当のスカウトとして、トットナムではフットボール・ディレクターとして活動してきた人物で、特にトットナム時代にはギャレス・ベイルやルカ・モドリッチなどを獲得した実績を誇っている。
たしかに毀誉褒貶の激しい人物ではあるが、コモリはサッカー界に新たな方法論を持ち込もうと試みていることでも知られる。その方法論こそ、マイケル・ルイスが著書『マネー・ボール』で描いた統計学的アプローチ(統計データに基づいて新たな観点から選手の評価と売買を行い、チームづくりを進めていくメジャーリーグのチーム強化法。オークランド・アスレチックスのビリー・ビーンGMは、この方法によってチームを見事に再建した)に他ならない。
現にコモリはトットナムのスポーツ・ディレクター時代にビリー・ビーンと接触。以後、定期的にコンタクトをとりあうようになった。
果たしてサッカーに統計学的アプローチが通用するか?
ジョン・ヘンリーが、コモリを要職に据えた理由は、まさにここにある。コモリ同様、ヘンリーが『マネー・ボール』の信奉者であることは改めて指摘するまでもない。彼がボストン・レッドソックスを買収した際には、ビリー・ビーンにチームを委ねることさえ打診したほどだ。しかもヘンリーはビリー・ビーンを介して、コモリとも知遇を得ていた。その意味において、リバプールを買収したヘンリーがコモリに白羽の矢を立て、『マネー・ボール』に基づくチーム再建を画策したのはきわめて自然な流れだった。
とはいえ、サッカーに『マネー・ボール』的な方法論を取り入れようとする試みは、まだ端緒についたに過ぎない。似たような方法論を他に先駆けて実践してきたとされるベンゲルにしても、『マネー・ボール』で示されているような明確な計算式=「セイバーメトリックス」を編み出しているわけではないし(少なくとも公表はしていない)、そもそも統計学的なアプローチがサッカーというスポーツに適用可能なのかという議論もある。
しかしながら、かつて「プレッシング」や「コマーシャリズム」がじわじわと浸透していったように、遅かれ早かれ『マネー・ボール』式のアプローチも、欧州サッカー界に定着していくだろう。その旗振り役になろうとしているのが、現在のリバプールなのである。